法務でのAI利用率は88.6%に到達。「定着と効果測定」のフェーズへ
「日本の法務・法律関係者におけるAI利用率は88.6%に達しています。ChatGPTやClaudeといった汎用AI利用者のうち、実に66.1%が『毎日利用している』と回答しており、これはAPAC全域で最も高い日常利用率です」
セッションの冒頭、漆崎氏は調査結果を示しながら、日本市場におけるAI活用の深さを強調した。今回の調査は、APAC全体の回答者1,715人のうち、日本の回答者211人(うち88.2%が企業所属のインハウス法務・事業部門)のデータを抽出・分析したものである。
かつては「AIを導入すべきか否か」という議論が中心であったが、現在ではすでに日常の業務プロセスへ組み込まれている。実際にAI活用の効果として、日本の回答者の88.1%が「付加価値の低い業務の時間削減」、86.3%が「業務運営の効率化」を挙げ、高い時間削減効果を実感している。
しかし、その活用実態を精査すると、一種の「偏り」が見えてくると漆崎氏は解説する。日本においてChatGPTをはじめとする「汎用AI」は、事務文書の作成(66.7%)や要約(62.2%)、翻訳(58.9%)といった幅広い情報処理業務に活用されている。
一方、法律知識やリサーチの正確性が厳密に問われる「リーガル特化型AI」の導入率は39.3%にとどまっている。
「『AIを使っているか』という導入フェーズはすでに過ぎ去りました。現在は、活用を通じて『どれだけの価値を引き出せているか』を測定し、定量的・多面的に実証するフェーズへと移行しています」と漆崎氏は語り、単なる作業時間の削減にとどまらない評価軸の確立が必要だと示唆した。
AI導入でも効果が半減される「ツール連携の不備」という摩擦
本調査において、日本の法務環境における最大の課題として浮き彫りになったのが「ツールの分断」である。
「『使っているツール間の連携不足』を課題に挙げた日本の回答者は50.2%に達しました。これはAPAC平均の37.3%を12.9ポイント上回り、調査対象となった10市場の中で最も高い数字です」と漆崎氏は指摘する。
興味深いことに、日本企業が日常的に使用しているツールの数自体(典型的な業務で1〜2個を使用する割合が62.9%)は、APAC全体(62.1%)と同等である。つまり、扱うシステム数が過剰だから不満が生じているのではない。
漆崎氏は「AIが新たに分断を生んだのではありません。もともと社内の主管部門ごとに分断されていた業務プロセスやデータベースの上に、そのままAIを載せたことによって摩擦が顕在化したのです」と分析する。
たとえば、購買契約や売買契約の条件が記録されている契約書管理ツール、購買先や売り先の請求時期を管理する財務会計システム、事業部門の顧客・案件管理ツール(CRM)などが独立して存在しているため、担当者は情報を複数ツールへ手入力で再入力(44.5%)しなければならない。AIという高速エンジンを搭載しても、線路となるワークフローが途切れているため、組織全体のスピード向上へ直結しないという構造的ボトルネックが浮き彫りとなった。
漆崎氏は「AIが新たに分断を生んだのではありません。もともと社内の主管部門ごとに分断されていた業務プロセスやデータベースの上に、そのままAIを載せたことによって摩擦が顕在化したのです」と分析する。



