「さっさと売ってこい」で行動を変えた。顧客の声から事業をブラッシュアップ
研究所やR&D部門発の新規事業プランにありがちなのが、「自分たちは素晴らしい技術を持っているから、必ず顧客はいるはずだ」という思い込みに陥ることである。松尾氏によれば、川崎氏のプランもエントリー当初は、技術力こそ際立っていたものの「本当にお客さんがいるのか」「本当にそのサービスでお金がもらえるのか」というビジネスの根幹部分の練り込みが不足している印象だったという。
川崎氏自身も「振り返ると、当時は一番行動力がなかった」と痛感している。事業性を検証する際、アンケート調査で好意的な反応を得て「これだったらいけるのではないか」と満足しそうになった川崎氏に対し、DOJOの伴走支援者からは厳しいダメ出しが飛んだ。「あなたのビジネスはコンサルティングだろう。大してリソースもいらないのだから、さっさと売ってこい。」と強く背中を押されたのだ。
この言葉をきっかけに川崎氏の行動は劇的に変わる。実際に顧客へ売り込みに行き、「中々売れない」という現実の壁を肌で感じることで、工場長や環境担当者が抱える真のインサイトを探り始めたのだ。良い技術を単に押し付けるのではなく、対価を払う価値のある「良いビジネス」へと事業をブラッシュアップさせる重要なプロセスが、この道場での試行錯誤にあった。
事業化の決め手は「サントリーの強み」と「起案者の圧倒的熱量」
数多くの新規事業アイデアが寄せられる中、なぜ川崎氏の「Water Scape」は最終プレゼンを通過し、免許皆伝に至ったのか。制度を運営する松尾氏は、成功の要因として大きく2つの理由を挙げている。
1つ目は、サントリーに元々ある技術や強みを明確に活かした事業プランだったことだ。営業やコーポレート部門から上がってくる提案は、必ずしも自社ならではの強みを活かしきれていないものが多いという。その中で、長年培ってきた「水」に対する圧倒的な知見をベースにした川崎氏のプランは、当初から際立って魅力的だった。
2つ目は、起案者である川崎氏自身の凄まじい「熱量」である。DOJOでは、社外起業家や事務局に事業アイデアを相談できる「壁打ちDOJO」という施策を用意している。川崎氏は制度を知ってからエントリーまで2、3週間しかない中で、この壁打ち枠を申し込めるだけ申し込み、直前の予約枠が川崎氏の名前で埋め尽くされるほどだったという。
壁打ちでは「浪漫は溢れているが、算盤を弾いてくれないと困る」といった厳しい指摘も受けたが、川崎氏は逃げずに食らいついた。自社の確固たる強みというベースに、この圧倒的な熱量が掛け算されたことで、プランは急速に練り上げられていったのである。

