モノづくりOSを脱却して巨大事業を生む外部連携
北島:合田さんは、今の「価値連鎖」のお話を伺って、メーカー出身の視点からどのように感じられましたか。
合田:私自身もメーカー出身なので非常に癖があるなと反省するのですが、メーカーの人間は「モノを作って売る」というシンプルなビジネスモデルに引っ張られがちです。そのため、田所さんがおっしゃるような「価値連鎖を作る」という概念をなかなか持てません。10億円規模なら売り買いモデルでも成立しますが、100億円、1,000億円規模になると、単独の会社で作ることは非常に難しくなります。
たとえばエネルギー業界の事業なら、国や地元の漁協など、緻密なステークホルダーマップを作り、複雑なスキームを設計する必要があります。商社の方々はこの「外部と組んでビジネスストラクチャーを構築する」という考え方をOSとして持っているため、1億円の事業を一気に100億円規模に跳ね上げる大構想力を持っています。
北島:メーカー的な発想だけでは、事業規模のスケールに限界があるということですね。
合田:はい。メーカーの新規事業における典型的な失敗は、自分を主語にしてPEST分析などのマクロ分析を都合よく作ってしまうことです。綺麗な資料を作っても「実際には市場に置けませんよね」と言われて終わってしまいます。
ですから、極端なことを言えば、メーカー出身の人は「メーカー以外の人」と組んで事業開発をしたほうがいいと思います。小売業や物流業の方々は“場”を作り、その中で価値連鎖を構築するプラットフォーマーの思考を持っています。ディープテック領域の単独事業化は非常に困難です。モノづくりに注力しつつ、複雑な価値連鎖の構築は他業種とも連携する、という割り切りが必要だと考えています。
プロダクト忖度を防ぐ「失敗しきる」実験と撤退戦略
北島:失敗事例という観点から、田所さんが事業を作る中で見えてきた課題はありますか。
田所:長年積み上げるようなやり方をしていると、新しいものを作る際にも「機能を足す」という足し算の発想になりがちです。私はこれを、マーケットではなく社内のステークホルダーに忖度する「プロダクト忖度フィット」と呼んでいます。
Appleは逆に、フロッピーディスクやDVDのドライブ、イヤホンジャックを意図的になくす「ディマーケティング」で自分たちの標準を作ってきました。大切なのはアセットドリブンでありながらも、UXを軽視せず、ユーザーの行動変容が起きているかを定量的に計測することです。
機能を削ぎ落とすなどの検証を徹底できず、結果として「失敗しきれていない」ケースが非常に多いと感じています。
北島:なるほど、検証を徹底しないことで「失敗しきれていない」状態に陥ってしまうのですね。それは具体的にどのような状況を指すのでしょうか。
田所:事業会社の新規事業でよくあるのが、ターゲットを1つのセグメントに絞り込み、担当者がそこだけで頑張り続けて撤退できなくなるケースです。新規事業はある意味「実験」です。価格帯やターゲット層を複数用意してポートフォリオを組み、4パターン試してダメなものからは素早く撤退する。
先ほどのchocoZAPも、最初はマシンを詰め込んだ黒い店舗を展開しましたが、誰も使わなかったため撤退しました。47店舗で同時に様々な実験を行い、一番良かったものを拡大再生産したのです。「両利きの経営」における「探索」とは「実験」と同義です。1万通りの組み合わせを試してダメなら諦めがつきますが、1、2回打席に立っただけでやめてしまうケースが多すぎます。実験をやり切り、きちんと「失敗しきる」ことが重要です。



