法務現場のアレルギーは消えたのか?「紙至上主義」の脱却からAI実用化への変遷
セッション後半では、記者陣と漆崎氏との間で活発な質疑応答が行われた。
記者からの1つ目の質問は、「AI活用において、現場の法務担当者のアレルギーや抵抗感はどの程度あり、それは解消されつつあるのでしょうか。プロンプトのガイドラインなどが利用推進の引き金になるのでしょうか」とうものであった。
漆崎氏は、データを見る限り、汎用AIの日常利用率は非常に高く、アレルギーはすでに克服されていると述べた。
「日本の企業法務は、最終的な意思決定や重要リスクの判断において、外部の法律職が持つ高度な専門知見を極めて強く信頼し、対価を支払う価値があると捉えています」と漆崎氏は解説する。
法務業界は元々、専門用語や紙の文書を重んじるアナログな世界。しかし、コロナ禍における在宅勤務の際、『法務だけが契約書に捺印するために出社しなければならない』という課題に直面し、電子署名をはじめとするデジタル化が一気に進んだ。原本がデジタル化されたことで、データをAIで処理する素地が整っていたのだ。
「プロンプトを個々人が工夫する段階から、業務手順そのものをAIアシスタントが導いてくれるガイド付きワークフローへと進むことで、利用者はストレスなくAIの恩恵を最大化できるようになるはずです」(漆崎氏)
AI時代における法務の存在価値──定型業務の標準化と「事業判断」へのシフト
続いて「AI時代において、法務業務の中で『変容していく(無くなっていく)こと』と、反対に『これから注力して残っていくこと』は何だとお考えですか」といった質問が投げかけられた。
漆崎氏は「定型業務のシステマチックな標準化が進み、人間は事業判断への貢献へと注力することになります」と述べた。
15年前であれば、法務や弁護士の価値は「頼まれた契約書レビューからいかに早く正確に問題点を見つけ出せるか」という経験則にあった。しかし現在、そうしたチェック業務の大半はデータ分析によって客観化され、AIで標準的な回答が得られるようになっている。
「だからこそ、法務のプロフェッショナルたちは自分たちの存在価値を急速にアップデートしています。AIによって定型業務の時間を削減し、浮いたリソースを『自社の事業を成り立たせるためのリスクテイク』や『事業判断を助ける戦略的アドバイス』へとシフトさせているのです」(漆崎氏)
別の記者からは「ツール間の連携不足について、具体的なユースケースを教えてください」という質問が投げかけられた。
漆崎氏は、先の例のようにメーカーの事例を出して回答する。部品を仕入れて販売する一連の取引において、仕入れ先の契約条件、請求時期、必要書面などが、CRM、会計システム、法務の文書管理データベースに分散して保管されている。本来であれば、これらが連携して初めて正しい取引判断が出せるはずだが、現在は担当者が各ツールを個別に見に行き、手作業で照合しているのが現状だという。ここを統合することが今後の大きな課題なのだと指摘した。
本セミナーレポートを通じて明らかになったのは、日本の企業法務が「AI導入率の高さ」という光と、「ワークフローの分断」「精度の不安」という影を併せ持っている現状だ。
- 個別最適から全体最適(ワークフロー統合)へ:単一のAIツール導入にとどまらず、契約作成から保管・管理・参照に至る一連の自社業務フローとツール群がどう接続されているかを再点検する。
- 目的に応じた汎用AIと特化型AIの使い分け:文章要約やアイデア出しには汎用AIを活用しつつ、リーガルリサーチや契約書レビューなど法的精度が問われるコア業務には、根拠データが担保されたリーガル特化型AIを割り振る。
- リーガルオペレーション視点による法務機能の再定義:定型業務をAIで標準化・高速化し、創出された時間を経営層や事業部に対する戦略的助言(事業支援)へと積極的に振り向ける。
読者が自社で明日から取り組むべきアクション指針を上記の3点に集約される。一度、自社の状況に照らし合わせて、このアクション指針を社内に投げかけてはいかがだろうか。



