「汎用AIで十分」という誤解と63.0%が弁護士に求める「高度な専門性」
2つ目の大きなギャップとして漆崎氏が提示したのが、「特化型AIへの認識」と「外部弁護士・法律事務所に求める期待」の食い違いである。
法律事務所などの外部専門家に対する期待として、日本の回答者の63.0%が「専門性」を挙げた。これはAPAC平均(43.6%)を19.4ポイントも上回り、本調査の中で最も顕著な市場間格差となった。
「日本の企業法務は、最終的な意思決定や重要リスクの判断において、外部の法律職が持つ高度な専門知見を極めて強く信頼し、対価を支払う価値があると捉えています」と漆崎氏は解説する。
しかしその一方で、法務特化型AIを未導入である理由を尋ねると、「汎用AIですでにニーズを満たしている」との回答が33.7%(APAC平均25.3%)に達し、予算の制約(44.2%)に次ぐ第2位の壁となっている。
「ここに大きな歪み(パラドックス)が存在します」と漆崎氏は語る。
「最高水準の法的正確性や専門性を外部に期待しながら、日々の社内業務においては、ハルシネーション(AIによる偽情報の生成)リスクのある汎用AIで済ませようとしているのです。実際、AI導入の懸念点として『正確性・ハルシネーションのリスク』を挙げた人は59.2%に上ります。出力結果の検証に余計な時間を取られるという本末転倒な事態を防ぐためにも、信頼できる一次情報源と紐づいた法務特化型AIの活用が鍵となります」(漆崎氏)
3年後の企業法務を見据えて──「リーガルオペレーション」と構造化ワークフローの必然性
では、このワークフローの分断と精度の限界を、企業法務はどのように乗り越えていくべきなのか。その回答として提示されたのが「ワークフローの構造化」と「リーガルオペレーション」である。
調査によると、単なるチャット形式のプロンプト入力ではなく、あらかじめ業務手順が組み込まれた「ガイド付きワークフロー」としてAIが提供された場合、70.6%の回答者が「利用する可能性が高まる」と答えた。一連のタスクを単一の画面や流れの中で自動化・可視化することで、ツール切り替えや重複入力のストレスから解放されることへの強い期待がうかがえる。
「3年後の企業法務で最も予想される変化」という問いに対しては、1位の「テクノロジースキルの重要性増大(48.8%)」に続き、2位に「リーガルオペレーションの重要性増大(38.9%)」がランクインした。日本の38.9%という数字は、APAC全10市場の中で最も高い割合である。
リーガルオペレーション(Legal Operations)とは、契約書処理件数や弁護士費用の管理、法務人材の育成、さらには事業への売上貢献度まで、法務組織の活動全体を構造的・定量的に捉えて最適化する管理手法を指す。
漆崎氏は次のように締めくくった。
「日本の企業法務は、人員削減を目指しているわけではありません(『部門規模の縮小』予測は16.1%とAPAC平均28.9%の半分程度)。テクノロジーとリーガルオペレーションを両輪とし、自らの組織能力と運営モデルをドラスティックに転換させようとしているのです」(漆崎氏)



