最初の特異点「言葉」は何が革新的だったのか(本書第2章より)
原人が現在の人類になった後、約5年前に、彼らの生活様式や文化に大きな変化が見られたという。彼らの脳内に何らかの突然変異が起き、言語が生じたのだ。言語の発明を転換点として、文明の進展は一気に加速する。
本書によれば、言語は個体間のコミュニケーションを円滑にしただけでなく、長寿命化に伴い祖父母世代が孫世代に知識を伝える「おばあちゃん効果」を発生させた。さらには書き言葉が遺ることで、より大きな世代間でのコミュニケーションをも実現した。「知」が蓄積可能になったのだ。
そして本書は、言語の最高の優位性が「自動生成」にあるとする。言語の知的構造を手にすることで、ヒトは自分の精神活動にアクセスでき、「言語は知性に知性自身を問うことができるように」なった。ヒトに生じた知性は、言語を得ることで独立を実現したのだ。
それでは、言語はいかにして生命とテクニウムとをつなぐのか。著者はまず生命の進化について、生物学者ジョン・メイナード・スミスとエオルシュ・サトマーリの分類を紹介する。これは生命を「自己生成可能な情報システム」と捉えた場合の分類で、生物学的情報の8つの閾値に基づき分けられる。下図のオレンジの部分だ。
「単一の複製する分子」からはじまり、霊長類による「社会」が形成されるまで、複製される情報の単位が大規模化・複雑化する様子がわかる。
一方で上図の青色の部分は、本書がまとめたテクニウムの遷移だ。言葉の発明以降、情報を伝える人間はほとんど変化していない一方で、印刷技術や工業技術などのテクノロジーは「自己生成可能な情報システム」を段階的に成長させてきた。
生命を共通の生化学的設計図をもつ部門でわけると、菌類、植物、動物、そして3種類の単細胞生物の6つの界から成り立つという。本書が主張するのは、生命の進化とテクニウムの発展は「言語」を介して繋がれており、「テクニウムは、生命の六界で始まった情報の再編成をさらに推し進める」というものだ。
本書はこの遷移における「言語」の意味を次のように伝えている。
システム的観点から見ると、言語は遺伝子より早く学習による適応や伝達を行うことができるものだった。
言語の発明は自然世界における最後の大きな変化だが、人工物の世界ではそれが最初の変化だった。