連載・コラム 「イノベーションのジレンマ」の大誤解

「イノベーション=技術革新」という認識が、イノベーティブな企業を窮地に陥らせる理由

「イノベーションのジレンマ」の大誤解:第2回

 前回の記事「イノベーションのジレンマの大誤解~なぜ既存企業からは新規事業が生まれないのか」は多くの反響をいただきました。「共感」だけに限らず、「反論」もいただきました。著者グループの思いは、日本から少しでもイノベーションが起き、そして世界で戦える事業が創造されることですので、反論も含め多くの方々とイノベーションに関する議論ができることは大変ありがたいことと感じています。クリステンセン教授の理論に対する反論もあるので、盲目的に信じる必要はないと思いますが、我々を含め多くの方が『イノベーションのジレンマ』で展開されたクリステンセン教授の真意について今一度深く考え直す契機になり、所属企業の事業開発につながることを願っています。さて、今回はもう少し「イノベーション」そのものを掘り下げていこうと思います。

[公開日]

[著] 鈴木 規文 合田 ジョージ 村上 恭一

[タグ] 破壊的イノベーション クリステンセン 事業開発 企業戦略 オープンイノベーション イノベーションのジレンマ 逸脱的イノベーション 小売の輪

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キーボードの延長線上から「Siri」は生まれない~「逸脱的イノベーション」と「持続的イノベーション」

 今回は個人的な話題から始めさせていただきたいと思います。私の息子は小学校2年生なのですが、幼稚園児の時からiPadを器用に使いこなしています。ローマ字変換も教えていないのですが、タッチパネルを上手く使いこなしています。恐らく物理的なキーボードは彼が大人になるまで触らないかもしれませんし、大人になったころにはもはやキーボードなどないのかもしれません。そして、息子はますます進化を続け、もはやタッチパネルも最小限しか使わなくなっています。Siriに話しかける方が彼にとっては楽なのでしょう。音声認識技術はキーボードだけではなく、タッチパネルの存在をも脅かしています。

 さて、物理的なキーボードの技術進歩の延長線上にSiriがあったのでしょうか。シュンペーターは「Creative Distruction(創造的破壊)」を説明する際に、馬車を改善し続けた結果、汽車が生まれたのではないと表現しています。顧客が感じる性能指標の非連続性が「逸脱的イノベーション(Disruptive Innovation)」の要件です。

S-Curve

 既存企業に所属される方で「日常業務の改善だって立派なイノベーションだ」「既存企業でもイノベーションは起こせるのだ」とおっしゃる方がいます。まったくその通りです。戦後、日本企業はイノベーションを繰り返し、高度経済成長期を経て、経済大国に躍り出ました。需要急拡大期においては、勤勉な日本人は主に欧米で生まれた製品やサービスを模倣し、「主要市場のメイン顧客が求める技術進歩による改善」をつづけ、世界の工場として栄華を誇った時代がありました。トヨタのカンバン方式、ハイブリッド車、薄型テレビ、4Kテレビ、LED電球、家電のワイヤレス化等、世界で評価されるイノベーションを生み出してきました。これらはクリステンセン教授の分類によるとそれらは性能指標の連続性がある「持続的イノベーション(Sustaining Innovation)」と表現されています。

 前回の記事で説明した「逸脱的イノベーション(Disruptive Innovation)」と、「持続的イノベーション(Sustaining Innovation)」は、明確に区分して使われています。クリステンセン教授の理論以前は、伝統的に「漸進的イノベーション(Incremental Innovation)」と「急進的イノベーション(Radical Innovation)」という分類でイノベーションが定義されていました。クリステンセン教授は、いくら急進的な技術進歩によろうが、重要な性能指標の転換(価値の転換)がなければ、それは「持続的イノベーション」であると言っています。従来の価値基準や顧客とはまったく異なるからです。SONYの「ウォークマン®」やTOTOの「ウォシュレット®」等、逸脱的イノベーションとして評価されるものもありますが、戦後の日本企業の強みは模倣し、改善しつづけることです。

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