病気になって当たり前が“相対化”された経験──社会学的想像力とは
宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):会社の中で新しいことをやっていくには対話をすることが不可欠で、それができる人とできない人にはどこに違いがあるのか? ということについて、引き続き考えてみたいと思います。
このシリーズで前々回に対談したミスターミニット社長の迫俊亮さんは、大学生の頃に社会学を勉強されていました。そのときに「人間の行動の背景には集団や仕組みの問題があり、問題と思われる行動にもその当人なりの合理性がある」と考える“社会学的想像力”という考え方を身につけていたことが、経営の場面での対話につながっていったようです。
市川さんの場合、30代半ばでご病気になられたという経験が大きかったそうですね。それはおそらく、今までの当たり前が相対化されるという機会だったんじゃないでしょうか。
市川博久氏(アクセンチュア株式会社 執行役員 セキュリティコンサルティング本部 統括本部長、以下敬称略):そうですね。僕はよく“幽体離脱”と言うんですけど、病気になったときに初めて自分を客観視したんですよね。それまでは「俺が事業を回してる。俺がいなくなったら止まる」と思ってたんですけど、いなくても回ったんです(笑)。
「あれ?」という感じで、病院で寝ているときに「俺がいない状態ってどういう状態なんだろう」と考えたことは、大きな変化でした。客観的に捉えて自分はどうなのか、周りの人たちがどういう思いで働いているのか、先生の言葉を借りると“観察”をするようになったんです。その結果、僕が一人で戦っていくよりも、なんとなく答えがありそうな方向にみんなの意識を向けていくというカタリスト的な動きかたのほうが手っ取り早いし、みんなハッピーなんじゃないかと、気づいたのかもしれません。