多拠点居住や複業キャリアというパラレルワールド──「社交のデザイン」による、組織の新たな拠り所とは?
【山極壽一氏×入山章栄氏×佐宗邦威氏 】特別鼎談・前編
早稲田大学大学院(ビジネススクール)教授・入山章栄氏と佐宗邦威氏の両名をホストに迎えた本連載。連載を続けるうちに二人が気づいたのが「ネットワーク」の重要性である。しかし、現状の「ネットワーク論」はSNSでのつながり等、顕在化できるつながりを論じたものばかりだ。もう一段深く考える必要があるのではないか。そう考えた二人は、人類学者、霊長類学者にして、ゴリラ研究の第一人者で京都大学 第26代総長、現・総合地球環境学研究所 所長の山極壽一博士と鼎談を行った。鼎談の模様を紹介する。本稿では、多拠点居住や複業化する時代に、人々の拠り所になるコミュニティの価値は何か。その形成などに関して多角的な観点から議論が進んだ。
複数の文化をネットワークで組み合わせ未来を考える
入山 章栄氏(以下、敬称略):これまでこの連載で様々な方と鼎談させていただき、これからの時代は「ネットワーク」だという一つの仮説が浮かんできました。イノベーションでもクリエイティビティでも、とにかくネットワークが鍵なのだと考えました。
ただ、現在の社会学のネットワーク研究は形式知、言葉などでつながるネットワーク研究ばかりです。しかし、一橋大学の野中郁次郎先生などは「暗黙知」が重要だとおっしゃっています。山極先生も『スマホを捨てたい子どもたち 野生に学ぶ「未知の時代」の生き方』の中で共感性に注目なさっていますが、「共感性」や「言葉にはならないけれどつながっている感覚」が重要だと感じますし、まだ我々の中で漠然としている「ネットワーク」に関して、体系的に捉えたいと思って本日はお時間をいただきました。
山極 壽一氏(以下、敬称略):今おっしゃった「暗黙知」や「共感性」、「言葉にはならないけれどつながっている感覚」とは、まさに「文化」なんですよね。サントリー財団を率いてきた劇作家で思想家の山崎正和さんは、2003年に上梓された『社交する人間―ホモ・ソシアビリス』という本で「文化とはリズムである」と指摘しています。私も非常に共鳴しているのですが、文化自体は目に見えない。文化の生産物である食事、建築物、演劇などは形があり目に見えますが、文化自体は身体に埋め込まれているものであって、リズムと呼べるものです。
例えば住み慣れた街で誰かと会い、食事をして話をしている。でも誰かが異文化から入ってくるとすぐに「おかしいな」と感じる。それがリズムとしての文化です。身体に埋め込まれていて、自分の好みや善悪、あらゆる判断に無意識に結びつき、直感的にわかるものです。それが今おっしゃった暗黙知ですし、同時にネットワークと呼ばれているものですよね。
文化は一人で生み出すものではなくて、人々が集まって時間を共有し、親や地域の人たちから歴史的な知恵や遺産を自然に受け継いでいるからこそ身についているもの。そして、こういうものが忘れさられている今だからこそ、改めて重要視されなければいけません。ところが、今話題のSDGsでは「文化」は重視されていない。記述はありますが、「都市の文化」レベルです。しかし、私が重視すべきだと思うのはもっと小さな範囲の「地域の文化」です。
未来を考える時に、我々は複数の文化をネットワークによってうまく組み合わせて、そこで新しく生まれる創造性、イノベーションを取り入れていくべきだと思います。
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