飛行機が飛ばない……コロナ禍で創立以来の危機に直面
──野中さんがANA(全日本空輸)に入社されたのはいつ頃でしょうか。
野中利明氏(以下、敬称略):2013年です。それまではコンサルティングの仕事に携わっていたのですが、コンサルティング会社よりANAに出向して、同社のLCC立ち上げを支援させていただく機会がありました。このLCC立ち上げ支援がきっかけとなり、その後ANAに中途入社しました。LCC立ち上げの支援を続けているうちに、「今度は事業会社側に身を置いて、当事者として事業に携わっていきたい」と考えるようになったのです。
入社後は、ミャンマーでの新規航空会社の立ち上げやベンチャーキャピタルへの出向を経験し、その後はMaaSの事業開発や地域経済活性化を推し進める官民ファンドと共に、地域創生のプロジェクトに関わってきました。現在は、2021年4月に新設されたCX推進室の業務推進部 担当部長という立場で、その中で価値創造チームという新規事業開発の組織を率いています。ですので、ANAに入社してからほぼ一貫して事業開発に携わっていることになりますね(笑)。
──現在のポジションに就任されたのは2021年なのですね。ちょうどコロナ禍がピークを迎えたあたりの時期ですよね。海外渡航や旅行が制限されたことで、航空会社にとっては非常に厳しい状況だったのではないでしょうか。
野中:それはもう皆さんがご存知のとおり、一時期は本当にどうなることかと思いました。旅客機がほとんど飛ばなくなった上、当初の想定以上に感染が長期拡大していきましたので、「もうダメかもしれない」と感じた社員もいたかもしれませんね。まさに弊社創立以来の危機だったと思います。
ただ、その悲壮感がずっと社内に漂っていたかというと、必ずしもそういうわけではありませんでした。メディアでも連日報道されていましたが、打てる手は矢継ぎに打っていったと思います。資金調達の目処をつけることに始まり、コストをできる限り圧縮すべく、多くの社員を外部へ出向させたり、グループを挙げてあらゆる領域で事業コストの見直しを図ったりと、経営陣から社員まで「とにかく打てる手はすべて打とう」という感じで苦闘していたと思います。
──そんな中、航空事業以外の領域でも、本格的に新規事業創出に取り組んでいこうという潮流が生まれたのですね。
野中:そうですね。航空会社の事業は、お客さまや貨物を載せて飛行機を飛ばすことによって初めて収益を得るわけですが、それが長期間にわたり完全に機能不全に陥るという、これまで経験したことのない苦境に陥りました。
航空事業は、外部要因に左右されやすいボラティリティの高い事業です。今回のコロナ禍による経営危機を経て、今後もANAグループが成長していくためには、「航空事業一本足打法からの脱却を図るべき」という考え方が明確に意識されるようになりました。航空事業をグループの中核事業に位置づけながらも、第二、第三の柱となる事業を創り上げていくべきだということです。