パーパス経営への転換が会社成長のきっかけに
大角:ここまで事業の戦略や施策の特徴を中心に伺ってきましたが、会社の成長という観点で大きな転機となったことはありますか。
増田:パーパス経営への転換ですね。きっかけは、私が代表取締役社長に就任した直後に、コロナ禍が訪れたことでした。当社には元々、「人々の健康を通じて豊かな生活文化の向上に貢献する」という基本理念があったのですが、組織にも浸透しておらず、施策立案にも活かされているとは言い難い状況でした。コロナ禍でMRの活動が制限されて先が見通せない中、「この理念でいいのか」という疑念が生まれたのです。
ちょうどパーパス経営に取り組む企業が増え始めてきた時期でもありましたし、私自身、「どうあるべきか」よりも「どうありたいか」にフォーカスを当てたいと考えていたので、理念ではなくパーパスを作ることを決意しました。
大角:パーパス経営の実装に苦戦する企業も多くありますが、東亜新薬はどのようなプロセスを踏み、どのようなことに気をつけてきたのでしょうか。
増田:パーパスを作る段階では、従来の基本理念を紐解くことから始めました。ただ、恥ずかしながら、30年以上前に作られたため、その理念に至った経緯は記録も残っていませんでしたし、発案者も覚えていませんでした。そこで、「健康」や「生活文化」といったキーワードが何を意味しているのか、WHOにおける定義や研究論文などを調査する中で明らかにしていったのです。
その後、定義を深掘りすることで発散してしまった言葉たちにもう一度軸を通し、ストーリーとして集約する作業を行いました。その結果、生まれたのが「健康と向き合い、健康に挑戦、暮らしを豊かに」というパーパスです。自分の健康と人々の健康を直視し、改善する。それによって社会に貢献するという意味を込めたもので、会社の役割を、社員自身と社会の中にうまく位置付けられたように思います。
一方、パーパスを浸透させる段階で意識したのでは、まずパーパスの「共有」です。社員たちに「そもそもパーパスとは何か」を説明した上で、できあがったパーパスを解説したのですが、想定以上の質問が寄せられて驚きましたね。その大半は「パーパス経営は成功するのか」「実際に成功した事例はあるのか」といったものでしたが、「必ず成功するとはいえないものの、このパーパスに向けて全社で足並みを揃えることに意味がある」と伝えていきました。
しかし途中で、パーパスを浸透させるには単なる「共有」だけでなく、「共感」が不可欠であると気づき、プロジェクトチームを発足させることにしたのです。そのチームに、パーパス経営に近接する健康経営優良法人の認定に向けた取り組みを任せたのですが、その過程でパーパスへの理解が深まったのか、創業60周年のイベント運営スタッフまで担ってくれました。また、「健康に挑戦」という言葉に紐づいてチャリティーウォークのイベントも開催でき、パーパスの浸透が進んだことを実感しています。