FP&Aが「戦略的パートナー」へ進化するには
池側:新設されたFP&A組織は、具体的にどのようなゴールを掲げているのでしょうか。
田中:私たちが掲げるゴールは極めて明確です。第一に「財務上の具体的な成果創出(ROIC向上・NPV増大)」、第二に「経営・事業の真のパートナー」としてのFP&A機能の構築です。
従来の経理業務が、財務諸表作成や決算分析、収支予測といった「過去から現在」を正確に記録・報告することが中心だったのに対し、FP&Aはそこからさらに数歩踏み込みます。具体的には、事業分析を深めて「課題抽出」「打ち手の提言」「モニタリング」「事業への伴走」という、未来の価値創造に直結するアクションに対して、事業の主役である事業部に伴走する形で当事者として関与します。単に数字の差異を報告するのではなく、「なぜこの差異が生じたのか」「目標達成のために、次にどのレバーを引くべきか」を事業部に提言し、共に解決策を導き出す役割を担います。
池側:ホールディングスと事業会社の間での連携、特に開沼さんなどが「兼務」という体制をとっていることも非常に興味深いです。
開沼:私は現在、ホールディングス(HD)と事業会社(ENEOS株式会社)の両方を兼務しています。この形のメリットは、事業会社の現場で起きている「一次情報」をできるだけリアルに掴みつつ、HDが求める「全社最適の資本効率」という視点で各事業部と連携できる点にあります。
事業部との会議の場で、「その施策はHD目線ではこうした方がいいと思います」とフィードバックし、軌道修正できる強みがあります。これにより、HDと事業会社の間の情報の非対称性をできるだけ解消し、全社最適とグループ全体のガバナンス強化を同時に実現していくことを目指しています。
HD兼務であることでCFOとの定例会議もあり、これを通じてCFOがFP&Aに何を期待しているかを把握できたり、ENEOSグループ全体としての状況をアップデートできたりすることもありがたいことです。ただ、事業のためのFP&Aですので、業務時間の大半を事業会社に向けております。
複雑な「石油ビジネス」を解剖するROIC経営
池側:石油事業は「連産品」(一つの原料から、複数の異なる製品が同時に生産されるもの)という特性があり、収益の切り分けが非常に複雑ですよね。どのようにROICを管理しているのですか。
開沼:おっしゃる通り、原油を精製するとガソリン、灯油、軽油などが同時に生産されるため、特定の製品ごとにコストを適切に割り当てることが非常に困難です。結局、主たる費用である原油コストを製品別に負わせるには一定のロジックに基づく配賦でしかできません。この「連産品」の壁が、これまでの管理会計の精緻化を阻んできました。
そこで私たちは、サプライチェーンを機能別(製造、販売、化学品など)に細分化し、これを事業とみなし、それぞれの領域で「機能(事業)別ROIC」を算定しました。具体的には、各事業を「移転価格(TP)」を用いて仮想的な利益センターとして切り分け、それぞれの「稼ぐ力」を可視化しました。
田中:これにより、「なんとなく全体で黒字」という曖昧な状態から脱却し、「どのセグメント、どのエリア、どの顧客層の資本効率が悪化しているのか」を具体的に特定できることを目指しています。現在は、事業別をさらに細分化する形で、製油所などの拠点別や関係会社別のROIC評価も進めています。
また、事業の価値としてNPVを算定し、これに基づく「未来予測経営」を進めたいと考えています。将来想定される各種環境変化のうち、どのような要素がどれだけ変化するとどれだけの価値(NPV)の変動が起こるかをシミュレーションすることで、将来のリスクの把握およびリスク低減と価値(NPV)拡大のための施策の検討を行っていくことを目指しています。
