「AIの欠陥」×「自社の独自性」をデザインする
続いて登壇したのは、博報堂DYホールディングスの執行役員・最高AI責任者(CAIO)の森正弥氏だ。森氏は内閣府のAI戦略専門調査会委員も務め、国家レベルのAI戦略策定に携わる第一人者である。
アクセンチュア、楽天を経て、デロイトトーマツにて先端技術・AI領域をリードしAPACリードを歴任。現在は最高AI責任者(CAIO)およびHuman-Centered AI Instituteの代表を務める傍ら 、内閣府AI戦略専門調査会委員 、日本ディープラーニング協会顧問 、慶應義塾大学xDignityセンターアドバイザリーボードなどの要職を兼任し 、産官学の視点から生活者と社会を支える「人間中心のAI」の進化を牽引する。
森氏は、現在のビジネス環境を、技術進化が検証スピードを追い越す「加速競争(Pacing Problem)」の渦中にあると定義した。
「AIそのものの進化を追いかける『キャッチアップ型』の戦略はもはや成立しません。重要なのは、AIの特異な能力境界を見極めることです」(森氏)
森氏が提示したのはハーバード・ビジネス・スクール(HBS)の研究チームが発表した論文『Navigating the Jagged Technological Frontier[2]』で提唱され、話題になっている「Jagged Frontier(ギザギザの最先端)」という概念だ。AIはある面では博士レベルの知性を見せるが、ある面では3歳児ができる論理的判断で躓く。このいびつな能力を理解せずに全自動化を狙えば、組織は致命的なミスを内包することになる。
「経営者に求められるのは、AIの『穴』を理解した上で、自社の独自の強み、すなわち『視点』とどう掛け合わせるか(コンペティティブ・コンバージェンス)をデザインする視座です」と森氏は指摘する。
[2]Dell‘Acqua et al、Mollick『Navigating the Jagged Technological Frontier』(2023、Harvard Business School)
AIに「視点」はない:独自データを活用した「共創」の形
森氏は、生成AIの本質的な課題として「AIには『視点』がない」という点を挙げた。AIは人類共通の知識(インターネット上の膨大なデータ)には答えられるが、「我が社の、そして私の(個別の)問題」には答えられない。
博報堂DYグループが掲げる「人間中心のAI(Human-Centered AI)」は、この課題への一つの回答だ。同グループでは、30年以上にわたる生活者調査データをAIに学習させ、対話可能な「バーチャル生活者」を開発。プランナーがAIと対話することで、自分自身のバイアス(思い込み)に気づき、より深い価値を創出する取り組みを行っている。
「AIに答えを求めるのではなく、AIから『問いかけられる』ことで、人間の能力を引き出す。AIは人類の可能性を拡大させるものであるべきです」と語る森氏。「生活者と社会を支える基盤」としてのAIは、単なる効率化を超え、人間の感性をいかに引き出すかという「価値創造」のフェーズに入っていることを示唆した。




