熟練者×AIの化学反応がもたらす「跳躍」
森氏は講演の終盤、経営者が知っておくべき「不都合な真実」に触れた。世界的な研究の中には、AI導入によって組織全体のパフォーマンスや集中力が低下するという可能性を示す内容が報告されているという。原因は、AIが出す平均的な回答への依存による「判断能力の減退」と、アウトプットの「同質化」だ。これでは、競争優位を築くことはできない。
一方、こうした課題を乗り越え、高い成果につなげやすいのが、タスクの熟練者がAIを活用する組織だ。
「AIに詳しい若手よりも、商慣習や技術の核心を熟知した『ベテラン』がAIを触った瞬間に、劇的な変化が起きます。ベテランが持つ『違和感』や『勘』をプロンプト(指示文)に加えた瞬間、AIは一般的な回答を脱ぎ捨て、驚異的な精度の『武器』へと変貌するのです」(森氏)
森氏は、若手が操作を教え、ベテランが仕事の勘所を教える「逆メンタリング」を通じて、熟練者のノウハウをAI資本へと昇華させることの重要性を説いた。
AI資本経営を成功させるための「3つのA」
森氏は、2026年から2027年に起こりうるAIの論点として、BtoB領域でのAIエージェントの急速な普及とワークフローの自動化を予測する。その上で、AI資本経営を成功させるための「3つのA」を提言し、講演を締めくくった。
- Automation(自動化):AIエージェントによる徹底的なオペレーション効率化
- Augmentation(拡張):熟練者の知恵とAIを融合させ、人間の可能性(創造性・感性)を広げること
- Aspiration(大志):AIとともに未来をどう変えたいかという、リーダーとしての確固たる意志
「AI時代を勝ち抜くには、現状維持を振り切る『脱出速度』が必要です。異なる知見を融合させ、レッドオーシャンから価値創出のブルースカイへと飛び立つ。そのための大志こそが、これからのリーダーに求められる最大の資質です」(森氏)
森氏の言葉は、技術論に終始しがちなAI議論において、改めて「人間がいかに主体性を持つか」という経営の本質を突きつけるものであった。
「AI資本経営」への3つのステップ
取り上げた2つのセッションを通じて浮き彫りになったのは、AIとは単なるコストカットの道具や「人を置き換えるもの」ではなく、「人のポテンシャルを最大化するための資本」であるという強いメッセージだ。研究開発や新規事業開発、経営企画を担うリーダーは、以下の3つのアクションから着手すべきだろう。
- AI BPRの断行:既存のワークフローにAIをトッピングする「ふりかけ」のアプローチを捨て、AIを中心に据えて業務プロセスそのものをゼロベースで再設計する。
- ベテランの「暗黙知」を資産化:若手主導の試行で終わらせず、現場の熟練者の「勘」をAIに注入させ、組織の共有資産(AI資本)へ変換する仕組み(逆メンタリングなど)を作る
- 「楽しさ(熱量KPI)」を先行指標に:雑務から解放された社員が思考に没頭する「フロー状態」や手応えを得ているかを評価指標に加える
AIという「デジタル資本」がオペレーションを担い、人間は「未来の価値」を定義する。その一歩は、現場の「知的摩擦」を消し去り、人が最も輝く領域を定義し直すという、経営者としての果敢な決断から始まる。
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