言葉の壁より厚い壁。失敗から学んだ「心を開く」対話への転換
宮森:苦しい状況の中で、何が最初のブレイクスルーになったのでしょうか。
村上:着任して3ヵ月頃、いろいろなストレスで英語を聞くのも嫌になり、毎晩その日の結果を振り返り、翌日のタスクを考えて英語に変換する作業で疲弊し、週末もぐったり寝込んだりしていた時期がありました。そんなとき、ミーティングにいつも時間に遅れてくるインド人メンバーが、仕事の合間に他愛のない話を振ってきたのです。私は疲労と苛立ちから「もういいよ」と冷たい反応をしてしまいました。その瞬間、彼の心のシャッターが「バン!」と降りる音がはっきりと聞こえたのです。
宮森:それは辛いご経験でしたね。
村上:はい。でもその失敗でハッとしました。言葉が通じない異国から突然やってきた私をリーダーとして受け入れ、彼ら自身も強いストレスを感じながら一緒に働いてくれていたことに、自分のことばかりで全く気づけていませんでした。相手の不安に寄り添えていなかった「自分の想像力の欠如」に気づき、猛省した決定的な瞬間です。
宮森:そこから村上さんの視点が劇的に変わりましたよね。
村上:決してやってはいけない「話しかけるなオーラ」を出してしまったことで、コツコツ築いた信頼が一瞬で崩れ去るのを目の当たりにしました。それ以降、語学の壁を言い訳にせず、自分から心を開き、相手に伝わるまで泥臭く対話を続けるスタンスへと心を入れ替えたのです。

CQで自身の現在地を知る。インド式リーダーシップの獲得
宮森:その後、双方が歩み寄り、お互いの違いを認め合いながら新しい協働の形を共創していく相互適応に向けて動き出されますが、タージマハルでの体験が大きかったと伺っています。
村上:はい。旅行でタージマハルを訪れ、ガイドの方からインドの複雑な宗教観や歴史的背景を聞いたとき、私はメンバーの背景を何も理解せずにマネジメントしようとしていたことに気づかされました。それからは、彼らの宗教や家族構成、普段食べているものなど、パーソナルな部分に強い関心を持ち、積極的に質問するようになりました。すると相手も私のことを聞いてくれるようになり、拙い英語でも心の繋がりを感じられるようになったのです。
宮森:CQ(文化の知能指数)の観点から見ても、驚異的なスピードで違いを受容し、相手の視点を獲得されていました。
村上:赴任から4ヵ月目くらいから随分と関係性が変わりました。インド社会特有の階層意識や権限に対する考え方やリスペクトの構造も理解できるようになり、強くトップダウンで意思決定をして発信すべき場面と、みんなの意見をフラットに聞く場面のパワーの使い分けが明確にできるようになりました。CQのアセスメントを通じて、自分自身の現在地や多様性に対する伸びしろを客観的な指標として可視化し把握できたことも、異文化のギャップに立ち向かい、チームの中でインド式リーダーとしての振る舞いを身につけていく上で非常に大きな助けになったと感じています。



