申請者を五重苦から解放する「伝票作成AIエージェント」の実力
後半のセッションでは、執行役員の宮川拓也氏より、「協働型AI」を具現化した「楽楽精算」の最新AIエージェント機能の詳細とデモンストレーションが披露された。
まず紹介されたのが、申請者の負荷を劇的に軽減する「伝票作成AIエージェント」である。従来の経費精算では、領収書のアップロード(AI-OCRによる読み取り)を行った後も、申請者は以下の「手作業」を強いられていた。
- クレジットカード明細や事前申請データとの「紐付け」
- 勘定科目やプロジェクトコードの「選択」
- 備考や摘要欄などのフリーテキスト「記入」
新機能の「伝票作成AIエージェント」では、領収書を選択するだけで、AIが裏側で過去の申請履歴や類似取引のデータを参照。決済カードデータの突合はもちろん、「負担部門は過去のラクス社への支払い履歴からR1234、プロジェクトは777」「過去の類似取引の傾向から、摘要欄に『楽楽精算システム年間保守利用料として』と自動入力する」といった高度な推論を行い、ほぼ完成された伝票を自動生成する。
ユーザーは生成された内容を確認して「申請」ボタンを押すだけとなり、わずか数分で作業が完了する。2026年6月にまずスマートフォン版を全ユーザーに正式リリースし、9月にはPC版の提供も予定している。
承認者と経理を救う「ダブルチェックAI」と「LLMによる社内規定審査」
さらに、同社は承認者および経理担当者の「確認・チェック業務」を自動化する3つのAI機能を実装中である。
1:証憑・伝票照合AI
申請時に使われたAI-OCRとは「異なるAI-OCRモデル」を裏側で走らせることで、領収書の記載内容と伝票の入力値にそごがないかを自動でダブルチェックする。デモでは、申請者が手修正で間違えた金額(伝票:2,020円/領収書:2,170円)をAIが的確に見つけ出し、エラーアラートを表示する様子が公開された。
2:適格請求書チェックAI
インボイス制度(適格請求書等保存方式)に準拠しているか、事業者登録番号の有効性や、必要な要件が記載されているかをAIが自動判定する。
3:申請レビューAI(LLMの活用)
従来のルールベースシステム(例:◯◯円以上の場合はアラート)では対応が難しかった、「人間による曖昧な推論」が必要な社内規定チェックをLLM(大規模言語モデル)で実現する。たとえば、「会議費の摘要欄には必ず参加者の名前をフルネームで記載する(苗字だけは不可)」という自社ルールを自然言語で登録しておくだけで、LLMが備考欄のテキストを読解して規定違反を自動検知する。
承認者は、画面上に並ぶ申請一覧のうち、AIのチェックをクリアした「緑色」の案件はスルーし、エラーが出ている「赤色」の案件だけを目検すればよくなる。これにより、膨大な時間を費やしていたチェック業務を最大で9割削減することが可能になるという。
AI時代における「業務理解」と「伴走」の重要性
ラクスのAI戦略、そして「楽楽精算」の進化から、我々ミドルマネージャーはどのような示唆を得るべきだろうか。ポイントは以下の2点に集約される。
1:業務全体への深い理解(ドメイン知識)なきAI実装は失敗する
ラクスが「SaaSは死なない」と言い切れるのは、2万社以上のバックオフィスに向き合い、個社ごとに異なる複雑な業務要件を熟知しているからである。AIを自社に導入する際も、既存の完成された業務フロー(合理性)を無視して「AIファースト」で無理に変革しようとすれば、現場の激しい反発と混乱を招く。まずは「どこをAIに委ね、どこをルールベースで残し、どこを人間が担うか」の最適な役割分担を設計することが先決である。
2:「定着」まで寄り添う伴走体制の確保
AIは一度導入すれば終わりではない。特に社内規定や個別性の高い推論をAIに行わせるためには、自社の知識やデータを「学習・カスタマイズ」させるプロセスが不可欠となる。ラクスが強みであるカスタマーサクセスの体制をAIの導入支援に転用するのと同様、社内推進派も「ツールを入れて終わり」にするのではなく、現場がAIを使いこなし、業務に定着するまで愚直に伴走する体制(リソース)を確保することが、DX成功の絶対条件となる。
「人間向けインターフェースは残ります。しかし、人間が汗をかく実務はAIが代替し、人は『確認するだけ』の世界へシフトします」(宮川氏)
決定論的なSaaSの信頼性と、確率論的な生成AIの柔軟性を融合させたラクスのアプローチは、AI時代の現実的なDXの教科書と言えるだろう。
