現代BtoBの必須戦略「ハイブリッド型」モーションへの移行
書籍では本記事で紹介した「AI主導型(AILG)」のほか、7つのGTMモーションをご紹介していますので、詳しく知りたい方は参考にしてみてください。
もちろん、あるケースでは1つのモーションを選び、その方法を徹底的に磨き上げることが成功の鍵になることもあります。しかし、多くの企業、一定の事業規模のフェーズを迎えた企業にとっては、1つのやり方に頼るのではなく、複数のモーションを組み合わせる「ハイブリッド型」のアプローチが求められます。
こうしたハイブリッド型が注目される背景には、「BtoBのコンシューマライゼーション」と呼ばれる大きな流れがあります。BtoBの世界でも、購買の中心になりつつあるミレニアル世代やZ世代は、日常生活で使っている消費者向けサービスのように「スムーズで使いやすい体験」をビジネスツールにも求めています。営業担当からの説明を待つよりも、まずは自分で試して価値を判断したいと考える傾向が強いのです。
実際、Forresterの調査では、バイヤーが信頼する情報源として営業担当は12位と低い位置にあり、営業を介さないセルフサービス型の市場は、2032年までに現在の2倍に拡大すると予測されています。
一方で、企業の購買プロセスは依然として複雑です。調達部門、法務部門、セキュリティ部門などが関与し、厳格な要件や承認プロセスを経なければなりません。このため、ユーザーが自由に試せるPLGだけでは全てのニーズに対応しきれないのです。
つまり現代のBtoB市場では、「すぐに試して判断したいエンドユーザー」と「厳格な条件をクリアしなければならない企業組織」という、相反するように見える2つのニーズが共存しています。この両方に応える唯一の方法が、複数のモーションを状況に応じて組み合わせるハイブリッド型のGTMモーションです。
今の時代、単一のモーションに依存するやり方では、市場の多様な購買行動や意思決定プロセスに対応することは難しくなっています。
プロダクト体験と営業アプローチを組み合わせる「PLG+アウトバウンド主導型」
PLGとアウトバウンド主導型の組み合わせは、現代のSaaSやデジタルサービスにおいて、最も強力かつ一般的なハイブリッドモデルの1つです。
まずPLGでは、製品そのものをマーケティングチャネルとして活用します。無料版やトライアル版を通じて幅広いユーザー層に利用してもらい、その利用データをもとに有望なリードやアカウントを抽出します。ここで重要になるのが、PQLとPQAの概念です。
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PQL(Product Qualified Lead)
製品を一定レベルまで活用し、購買意欲や潜在価値が高いと判断できる個人ユーザー。 -
PQA(Product Qualified Account)
アカウント単位で製品利用が活発化し、商談化の可能性が高い企業。
このPQL/PQAを判定するうえでも、ターゲット粒度の視点が欠かせません。スコアリングモデルを設計する際には、ターゲットが「人(リード)」なのか「企業(アカウント)」なのかによって、評価項目や重みづけが大きく変わります。
たとえば、人を単位とする場合は役職・利用頻度・特定機能の使用有無などが重要ですが、アカウント単位では部署内の利用者数、部門横断での利用拡大、全社的なアクティベーション率といった指標が有効です。
※1 このPQL例は個人を前提としているが、アカウントをターゲットとしたPQAモデルでは社内利用者数や部門間の拡大状況といった指標を加えることで、より精度の高い選定が可能。
こうして抽出されたPQLやPQAに対して、アウトバウンドチームがパーソナライズされたアプローチを行います。営業担当者は利用データから顧客の課題や関心領域を把握しているため、提案の精度が高まり、成約率も向上します。このモデルにより、SMB市場では大量獲得を継続しつつ、エンタープライズ市場では高額かつ複雑な契約を効率的に獲得できます。その結果、ACVやLTVの双方を引き上げることが可能になります。
HubSpotは、もともとインバウンドマーケティングを主軸とするSLG型の企業として成長しましたが、より広い市場への対応を目指してフリーミアム型CRMというPLGモーションを導入しました。この無料CRMは膨大なユーザーベースを形成し、その利用データが営業チームにとって強力なリード生成エンジンとなっています。
製品を通じて価値を実感したユーザーや、そのユーザーが所属する有望企業が特定されると、営業チームが直接アプローチし、カスタマイズされたデモや価格提案を行い、中小企業から大企業まで幅広く成約を獲得しています。このようにPLGとアウトバウンドを組み合わせることで、同社は市場の裾野を広げながら、大規模案件も着実に積み上げています。
ユーザー体験と熱量で拡大する「PLG+コミュニティ主導型」
PLG+コミュニティ主導型は、ユーザーの利用体験そのものを成長の起点とし、製品価値を最大化しながらユーザー基盤を拡大していくアプローチです。
製品の周りに強力なエコシステムを構築し、スケーラブルなユーザーサポート、製品フィードバックのループの形成、UGCとファンの形成を通して、サポートコストや顧客獲得コストの低減や製品改善の加速を実現します。このフライホイール効果(※2)により、エンゲージメントの高いユーザーが製品を改善し、新たなユーザーを引きつけます。
※2 小さな成果の積み重ねが連鎖的に作用し、成長を加速させる自己増幅的な循環構造のこと。
NotionやFigmaのような企業は、熱心なユーザーコミュニティを活用して、テンプレートやチュートリアルを作成し、製品を広めています。このユーザー主導のエコシステムは、製品自体の価値を高め、定着率を向上させます。ユーザーが自発的に製品の活用方法を発信し、他のユーザーを支援する文化が、製品の成長を加速させているのです。
事業フェーズで切り替えて成長を加速させたCopy.aiの事例
Copy.aiは、フェーズごとにGTMモーションを柔軟に切り替えながら成長を遂げた好例です。2020年の設立当初、営業・マーケティング担当者をターゲットオーディエンスとして設定し、初製品をTwitter(現在のX)で公開しました。代表のポール・ヤクービアンが自ら会社の顔となり、開発や事業の進捗を積極的に発信したことで、90日間で4万ユーザーを獲得。この時期はSlackやZoomのようなPLGで、SNSを起点としたボトムアップ獲得が成長のエンジンでした。
ユーザー基盤が拡大するにつれ、Copy.aiはコンテンツなどの生成コストの低下を背景にフリーミアムモデルへ移行します。NPSの継続トラッキングや定性フィードバックを活用して製品改善を進め、100万ユーザー到達時にインバウンドモーションの強化を推進するメール、ソーシャル、SEOの専任担当を配置。TwitterやFacebook、自社コミュニティを活用してエンゲージメントを高めるなど、PLGを中核に据えつつインバウンド施策やコミュニティ運営を組み合わせたハイブリッドな成長フェーズに移行しました。
しかし、フリーミアムでは1~5%の収益化率にとどまり、投資家からさらなるグロースを求められたことを契機に、2024年にはアウトバウンドも含めてSLGへの転換を図ります。CROやCMOといったBtoBのICPをターゲットに、ユーザーインタビューを通じて長期的な製品ニーズを特定。プロダクトもAI自動化フロープラットフォームへと進化させ、2000以上のツールと統合し、コンテンツ生成から営業プロセス自動化までを包括的にカバーできるようにしました。
ユースケースはコンテンツ作成・ローカライズ、商談生成・アウトバウンド自動化、トランスクリプト分析による案件管理、学習・開発プログラム設計、システム統合・データ管理など多岐にわたり、結果として1500万ユーザーを達成。収益は前年比480%増、ARR(年間経常収益)も4か月連続で20%以上成長するなど、エンタープライズ市場でも強い存在感を示しました。
この成長過程は、事業フェーズごとに最適なモーションを選び、組み合わせていく「モーションミックス」の重要性を物語っています。初期はPLGでスピードと拡散性を優先し、スケール期にはインバウンドやコミュニティ施策で裾野を広げ、成熟期にはSLGで高単価案件を攻略する。Copy.aiの事例は、固定的なGTMモデルに依存せず、プロダクト、マーケティング、セールスを統合的に運用することで持続的成長を実現できることを示しています。




