新しいことを始める時に頼るべきは、歴史的に残ってきた本質的な「リベラル・アーツ」
山口:
僕は、違和感に気づくために大事なのが「リベラル・アーツ」だと思っています。例えば哲学というのは、自分が組み込まれているシステムを批判的に内省する技術の体系だと思うんですね。武井さんがおっしゃった会社の人事制度、あれをみんなが当たり前だと思っているのはなぜですか、と聞くと、多分誰も答えられないでしょう。当たり前だと思っていることって、よくよく考えてみると誰も説明できない。それって、しんどいことだと思います。そんなときに、同時代のマニュアルなんかを頼ったら、現代のシステムの枠から出られません。
僕が大変憧れている人にエルネスト・ゲバラ(チェ・ゲバラ)という人がいますが、彼はキューバ革命を成功させた後、コンゴの内戦支援に行きました。ゲリラになってコンゴのジャングルにいるときに、彼が「これを送ってくれ」と奥さんに頼んだ本のリストが残っているんですが、その内容がとんでもないもので。プラトンの『国家論』だとか、ほとんどがギリシャ時代から中世にかけての古典なんです。コンゴで新しい国を作ろうとしているときに、行政論や議会の運営なんかに関する近代的な本もたくさんあったはずですが、彼はそんなものは必要としなかった。彼が頼ったのが国家行政に関する技術的なマニュアルではなく、完全なリベラル・アーツであったというのは、すごく示唆深いと思います。