「組織の問題の発生源」は“特定の個人”にではなく“組織の構造”にある
——まずは皆さんの自己紹介と、『ティール組織』との関わりなどについてお話しください。
嘉村 賢州氏(特定非営利活動法人 場とつながりラボhome’s vi 代表理事 ファシリテーター / 『ティール組織』解説者、以下敬称略):僕は、人と人が集う場が、対立やしがらみではなく化学反応の起きる場になるにはどうしたらよいか、ということをファシリテーターとして実践しながら探求しています。最初は町づくりが中心で、「京都市未来まちづくり100人委員会」という、下は18歳から上は74歳までの市民が一堂に会して町を変えていくという取り組みをやっていました。京都はしがらみも多く、ただ集まっても建設的な話し合いが生まれない。そのため、紛争解決の技術やナラティヴ・アプローチ、ホールシステム・アプローチといった様々な対話手法を使って試行錯誤していたのです。
あるとき、「企業の中にも紛争状態はよくある」ということを聞き、そこから「学習する組織」や「U理論」といったものに出会い、企業の組織変革を支援するようになりました。そこで気づいたのが、事業規模も業種も違う様々な企業で同じ課題が起きているということです。多種多様な組織で同じようなことが起きているのは、個人ではなく構造の問題で、そもそも組織のやり方が間違っているんじゃないかという疑問を3年ほど前に持ち始めました。そして、「ティール」と出会ったときに稲妻が走ったような感覚があったんです。それからは、組織変革のファシリテーターをしつつ、こういった新しい形の組織の研究もするという道に進み始めました。
『ティール組織』の著者であるフレデリック・ラルーさんも、やはり今の組織に共通する課題があると感じたところから研究をスタートしています。彼はエグゼクティブ・コーチという仕事をする中で、始めは社長がビジョンをもって立ち上げた会社が、いつの間にか売り上げに追われたり、何か恐れを抱えながらそれを隠し続けたりしているという状態になっている、この経済社会は何かおかしい、――そんな問題意識を持ったんです。
そこで彼は、働く人が本当に輝いていて、かつお客さんや地域や社会も喜ばせているような組織を探求していきました。今までの組織論のパラダイムと全く違う組織がいくつか見つかったのですが、それらの組織同士はお互いを知らなかった。つまり、特にすり合わせたり学び合ったりはしていないにも関わらず、ピックアップした十数社が極めて酷似していたと。そのことにとても興味をひかれ、それを彼なりの切り口で説明したのが”Reinventing Organizations”(邦題:『ティール組織』)です。
今は世界中で「ティール」に関する学び合いや試行錯誤が起きていますが、ラルーさん自身がセミナーやワークショップをすることはほぼありません。ご本人も最近どこかで「正しいとか間違っているとか論争になるので、“ティール”と呼ばずに“ネクスト・ステージ”くらいでいいんじゃないか」と言っていましたが、ひとつの答えがあるというよりも、今までと全く違うものをみんなで作っていこうという考え方なのだと思います。