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実践フェーズの人的資本経営

“自社を脅かす課題”を統合報告書で開示する理由──PALTACの人的資本開示に宿る創業以来の精神とは

【第3回】ゲスト:株式会社PALTAC 取締役専務執行役員 経営企画本部長 嶋田政治氏

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文化として備わる「人」にフォーカスした経営

田中弦氏(以下、敬称略):私は2023年1月に、国内の上場企業957社の統合報告書やCSRレポートに目を通して人的資本開示を比較し、独自に評価をつけました。その中で最高評価をつけた企業は37社あったのですが、卸・流通業界ではPALTACが唯一の最高評価でした。

嶋田政治氏(以下、敬称略):ありがとうございます。そう言っていただけて光栄です。

田中:私は下図のような人的資本開示のフレームワークを提唱しているのですが、特にPALTACは、多くの企業が統合報告書で疎かにしがちな「②理想とのギャップ」を明確にし、解決すべき課題や目標を開示できている素晴らしい事例だと感じました。

田中氏が作成した「人的資本開示を経営で議論するためのフレームワーク」
※取材当時のもの

[画像クリックで拡大表示]

嶋田:卸・流通というのは、自社のことだけを考えていても事業が上手くいかない業態です。常にメーカー様、小売業様、そして我々が「切れないチェーンでつながっている」という意識でビジネスを展開してきました。そして、消費者がいつでもどこでも商品を適正な価格で購入できる状況をつくることも、私たちの使命です。

 こうした価値観を背景に、「人的資本経営」という言葉が一般化する前から「人」にフォーカスした経営を実践しています。たとえば、小学6年生以下の子どもがいる社員は時短勤務できるという制度を2016年から実施するなどですね。勤務時間が不安定になりがちな流通業界では、当時は珍しい制度でした。

田中:世間一般では、流通業界の場合は人件費を出来るだけ安くしてオペレーションを改善し、流通コストを下げることがセオリーだという認識の方も多いかと思うのですが、それはPALTACの精神とは異なるのですね。

嶋田:はい。私がPALTACに入社したのは2005年ですが、当時、経営陣までが「当社の事業はパート・アルバイトの従業員に支えられている」という意識を持っていたことに驚いた記憶があります。実際、当時の社員構成比率は、パート従業員の人数が正社員の倍以上という状態でした。パートの人数が正社員よりも多いのは流通業ではよくある光景でしたが、経営陣がこうした認識を持っている企業は珍しかったです。

 こうした意識が、たとえば職場環境づくりの姿勢にも表れていました。物流センターの中にカーペットを敷いたり、商品を置く位置を毎週変更して、その時期に一番多くピックする商品を手が届きやすい棚に置いたりするのも、すべて従業員に気持ちよく働いてもらうため。人や環境に投資すれば生産性が上がって、結果的にコストが下がることに昔から気づいていたのです。

田中:人を大切にするカルチャーが昔から備わっていたからこそ、人的資本の重要性が認識されつつある今、他社に先駆けて人的資本経営を実践できているのですね。

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この記事の著者

金指 歩(カナサシ アユミ)

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