スピーディな対応と細やかな改善が可能な「トップボトム」
鈴木:では、関連会社の巻き込みはどうでしょうか。本社主導のプログラムに対して、関連会社は距離を置きがちだと思います。
森久:そこも最初は課題がありました。関連会社には独自の規定があり、関連会社起点での新規事業提案自体が難しいケースがありました。しかし、関連会社の社員には新規事業へのモチベーションの高い人材が多くいます。また、関連会社自体も、将来的に新規事業を立ち上げることや、それに適した人材育成の必要性を感じていました。
そこで、関連会社の社長とも直接対話し、TRIBUSへの期待を聞き出すようにして、関連会社も参加しやすいプログラムフローにすることを意識しました。実は、こうして直接話に行く前は、TRIBUSのような取り組みは迷惑な面もあるかもしれないと思っていました。しかし、議論を重ねる中で、お互いの距離感が近づき、正直なニーズを聞けるようになりました。
個人的に印象に残っている事例として、2022年にスキャナー事業を大きく手がける株式会社PFUがリコーグループに新たに加わったときのことがあります。私たちはすぐに説明に伺ったのですが、その結果、同社から多くのTRIBUSへの応募があり、中にはPFUに入社して数ヵ月の社員がTRIBUSに応募するケースもありました。
鈴木:新しい組織の文化に馴じむ前からグループ全体のイノベーションプログラムに参加するというのは、非常に興味深い事例です。こういった取り組みを通じて、グループ全体のイノベーション文化が醸成されていくのでしょうね。
森久:そう願っています。TRIBUSでは、毎年年度初めにはあらゆる役員、そしてグループ会社の社長にプログラムの意義を説明させていただいています。他にも、新任の役員や社外から来た役員にも積極的に説明し、彼らの知見をTRIBUSに活かす努力もしています。たとえば、過去には新任役員を招いた社内向けウェビナーをTRIBUSで開催しました。そういう地道な積み重ねを行うことで各社の社員がTRIBUSに応募しやすくなり、またスタートアップとの協業・共創をトップが支援してくれる状況に繋がっていくと思うのです。
鈴木:新規事業の成功には、トップの強いコミットメントが欠かせませんよね。他社では、プログラム開始時こそ、役員層などのトップへの説明を盛んにしますが、それ以降は少なくなる傾向があるように思います。トップが関与しなければ、プロジェクトはいずれ失速してしまうおそれがあります。
森久:おっしゃる通りです。ただし、トップダウンだけでは現場の声や新たな課題が見えなくなるリスクもあります。そのため、私たちの造語である「トップボトム」という考え方を大切にしています。これは、トップが方向性を示しつつ、現場には裁量を与えて信頼するというアプローチです。このバランスを取ることで、スピーディな対応と細やかな改善が可能になると考えています。
鈴木:対話や説明を重視しながら、トップダウンに頼りすぎることがないという絶妙なバランス感も、TRIBUSの魅力ですね。