現場が戦略を“自分ごと”にするための「変革支援者」の存在
宇田川:例えばどのような工夫が効果を上げたのでしょうか。
芦村:まだ道半ばではありますが、大きくは3つあると思っています。
1つ目はCXに関する理解を深めていったことです。私たちCS統括部の中で「CXの型を学ぼう」と呼びかけ、クアルトリクスさんから専門家を招いて、講義を受けました。CX活動の仕方や考え方を皆で学ぶことで、標準的な知識レベルが身についたと思います。
2つ目は、部門を横断したコラボレーションが進んだことでしょうか。先ほど触れられたスクラム活動がコラボレーションの後押しをしたという側面があると思います。
3つ目は、他部門の成功した取り組みをトレースするようになったことです。それまでは比較的、縦割りで仕事をしていたところから、Zoomなどのコミュニケーションツールを使うようになって、他の部署が何をしているのか可視化されるようになりました。そうすると「あの部署ではこういう考え方でCXをやってうまくいっているから、自分たちもやってみよう」といった動きもすごく進みました。

宇田川:なるほど。しかし、それでも日々の業務での目標達成に追われて、新たな取り組みに着手できないという人もいるんじゃないですか?
芦村:そうですね。「やったほうがいいのは分かるけれど、目先の自部門の課題のほうが優先だ」というマインドは、最初の頃は顕著にありました。それに対しては、CX活動とNPSそして売上との相関といったデータをクアルトリクスを活用して表すこともできますので、見える化するだけではなく「ストーリーづくり」などまでを、私たちCX推進改善グループが全体をサポートしていきました。
宇田川:「ストーリーづくり」というのは、具体的にはどんなことをされるのでしょうか。
芦村:クアルトリクスを導入後、オンラインショップやコールセンターなどのお客さまとの接点で、アンケートを統合して取得できるようになりました。それ以前は、アンケートが別々にあって、「サイトの文字は見やすかったですか?」とか「オペレーターの説明が丁寧でしたか?」といったタッチポイントの体験を我々側の視点かつ縦割りでお客さまに聞いていたんです。
本来は、お客さまがどの時点でコールセンターにご連絡をいただき、その課題が解消されたのか。また、オンラインショップでのウェブサイト上の体験の後に、配送や請求などのリアルな場での体験はどうだったのかなど、カスタマージャーニーを明確にして一連の体験トータルでスムーズな問題解決ができたのか否か。それがクリアになっていないと、CLTVの最大化をするCX改善活動になりません。そのために必要な情報が得られるようにアンケート内容を変えましょう、そしてデータに基づく改善をし、この数字が上がれば収益増にも貢献できますという「ストーリー作り」を支援しています。
宇田川:CX活動がどう収益につながるのかを、見える化だけではなくストーリーまで考えるという徹底をしたのですね。なるほど、大変地道な活動をされていることが分かりました。この連載では、以前から企業変革を推進する際に、経営陣と現場をつなぐ「変革支援者」の存在は重要だと主張[1]しています。芦村さんはまさにその役割を担っていますね。

[1]やつづかえり「宇田川准教授がライオン松本氏と藤村氏と語る、インサイドアウトの経営変革に不可欠な両利きの支援者とは?」(Biz/Zine、2021/07/13)