業務データから「質的効率」と「量的効率」を可視化する基本ロジック
荏原製作所が構築した「知財ROIC」は、財務会計の指標ではなく、知財活動の投資対効果をモニタリングするための「管理会計的」な指標である。その基本式は以下のとおりに定義されている。
髙栁氏はこの式をさらに2つの要素に分解し、知財活動の効率性を2つの側面から評価していると説明する。
左項は「質的効率」を意味し、同じアウトプット(知財活動量)において、事業利益を増大できる質の良い権利の取得や、リスク排除といった「成果」をいかに増大できたかを示す。一方、右項は「量的効率」であり、スキルアップや業務改善、無駄の削減によって、同じ投資量(費用や工数)でいかに活動の「量」を増大できたかという、業務効率の向上をモニタリングしている。
多くの知財関係者が最も関心を寄せる「分子の『成果』をどう数値化しているのか」という点について、髙栁氏は「∑(関連する知財活動の実件数×成果係数)」という算出式を示した。実件数には出願数や登録数、IPランドスケープの報告数などが入り、そこに社内の発明評価やフィードバック評価から導き出した「成果係数」を掛け合わせ、その総和(シグマ)を取ることで、知財活動が事業に与えたインパクトを数値化している。大量の業務関連データを処理してこのスコアを算出するプロセス自体が、高度な情報分析に基づいている。
社内評価の客観性を証明する「PatentSight+」との高い相関
知財ROICの分子の精度を担保する上で、最も重要なのが特許出願や登録における「成果係数」の設定である。同社では、自社実施にかかわる「社内発明評価」のスコアを成果係数として用いているが、その評価は以下の「4つの軸」で厳密に行われている。
髙栁氏は、この4つの軸が3Cや5F(ファイブフォース)、SWOTといった経営戦略のフレームワークと綺麗に整合していることを示し、事業部門への説得力を高めていると語る。
しかし、これだけでは「社内だけの主観的な評価ではないか」という懸念が残る。そこで同社は、知財分析プラットフォーム「LexisNexis PatentSight+」を活用し、社内評価と客観的な外部指標との相関性を徹底的に検証した。
検証の結果、社内発明評価が高い(グラフの「高」側)案件ほど、特許の技術的価値を示すTR(Technology Relevance)の平均値において高い相関を示した。さらに、特許ポートフォリオの競争力を示すCI(Competitive Impact)との相関においては、決定係数(R二乗)が0.8296という極めて高い相関関係が確認されたのである。
「CIとの相関がTRよりも非常に高くなっているのは、我々が『社内評価の高い重要な案件ほど、多くの国で権利化する(多国展開する)』という運用を徹底している証拠です。社内評価を愚直に高める活動が、そのまま社外からの評価や会社価値の向上に直結しているということを、データを持って経営陣に明確に証明できるようになりました」(髙栁氏)
