「PBR1倍」を超えてもアクティビストの標的に
かつてアクティビスト(投資先の経営陣に積極的な経営改善を求める「物言う株主」)のターゲットといえば、「PBR(株価純資産倍率:企業の資産価値に対して株価が妥当かを示す指標)」が1倍を割り込んでいるような、いわゆる「割安放置企業」が中心であった。しかし、現在のトレンドは大きく変化している。
「これまではPBR1倍割れの企業が注目されていましたが、現在は1倍を超えていても、同業他社と比較して株価が劣後している企業、つまり『もっと価値が上がるはずだ』と見なされる優良企業にもアクティビストが入ってくるようになっています」と古田氏は指摘する。
アクティビストファンドの運用資金は世界的に拡大しており、それにともないターゲットとなる企業の「大企業化」が進んでいる。直近のデータでは、アクティビストによるキャンペーン(経営陣への要求活動)の対象企業のうち、実に6割以上が時価総額1,000億円以上の大企業という実態が明らかになった。彼らは株主還元といった即効性のある要求にとどまらず、事業戦略やガバナンス(企業統治)そのものへ深く踏み込んできている。
古田氏は、主要アクティビストの最高投資責任者の言葉(3つの選択肢)を引用しながら、上場企業が置かれた本質的な状況を説明した。
- 自社で成長戦略を描いて自助努力を続ける
- PEファンド(未公開株投資ファンド)やストラテジックバイヤー(同業の事業会社など)に買収してもらう
- アクティビストと協働して取り組みを進める
「上場企業は、上場した時点で資本市場に対して持続的な企業価値向上を目指すことを公約しています。であれば、企業に残された選択肢はさきほど引用したアクティビストが提示した3つしかありません」(古田氏)
さらに古田氏は「上場企業として自律的に残っていくという選択をするのであれば、もう『1』しかありません。その覚悟ができているかどうかが、今まさに問われています」と語り、経営陣に自律的な変革への覚悟を求めた。
GDP比でみる「多すぎる日本の上場企業」──東証が量より質を重視する背景
なぜこれほどまでに日本市場でアクティビズムが加速しているのか。その構造的背景として、古田氏は「世界のGDPシェアと上場企業数のバランス」というマクロデータを提示した。
日本のGDPシェアは世界第四位の3.6%であるのに対し、上場企業数は約3,700社にのぼる。これを1社あたりのGDPに換算すると、米国が74億ドル、欧州が86億ドルであるのに対し、日本はわずか11億ドルと極めて低い。つまり、経済規模に対して「上場企業数がかなり多い」状態なのだ。
米国では、1996年の8,090社をピークに上場企業数が過去数十年で半減した。興味深いのは、米国の減少が始まった1996年当時の1社あたりGDP(10億ドル)が、現在の日本の水準(11億ドル)とほぼ同等だったという事実である。
日本市場に目を向けると、東証の市場統合以降は右肩上がりだった上場企業数が、2024年を境に初めて減少に転じている。
「米国では20〜30年かけて企業数が半減していきましたが、現在の日本市場を取り巻く環境を考えると、これからはるかに速いスピードで上場企業の減少トレンドが加速する可能性があります」と古田氏は予測する。
東京証券取引所自体も、2024年の発表で「上場企業数という『量』には重点を置かない」という方針を明言している。TOPIX(東証株価指数)の構成銘柄を大幅に絞り込む見直しを進めているのもそのためだ。市場のルールそのものが「より強く、質の高い上場企業だけを残す」方向へと舵を切っている。
