「飛び地」は危険? 自社アセットをフル活用する“真っ当な”戦略
──大企業が新規事業をやる際、「新規事業をやること自体」が目的化してしまっているケースをよく見かけます。コンサルタントに頼りすぎた結果、相手の土俵である自分たちが知らない領域、いわゆる「飛び地」に行こうとしてしまう。自分たちのアセットをしっかり活かす戦い方についてはいかがでしょうか。
山本:私自身、最初は「お金が稼げるならヤマハのアセットを使わなくても良い」と思っていました。しかし、アセットを活かさないとお金は稼げないのです。販売チャネルなどを活用したほうが良いと気づきました。
たとえば、ボーカロイドの新しいキャラクターボイスを出す際も、元々あるボーカロイドの販売プラットフォームに載せるだけで済んだため、ウェブサイトを作る必要もなく、かけたコストは圧倒的に低く済みました。スピード感を出してやるなら、既存のアセットは活用すべきです。
──勝ち筋や規模を大きくすることを考えたとき、自分たちの強みがある領域で戦うのは非常に真っ当な話ですよね。
山本:リソースを外部にお願いできるところはコンサルタントや副業人材、スタートアップをうまく使うべきです。ただ、「勝ち筋を考える機能」は社内に絶対に残さないといけません。ヤマハの社員は幼少期から音楽をやっていた人が非常に多く、そういう人たちが集まっている企業にしか持ち得ない「見えない資産」があります。それをどう戦略に変えていくかは、絶対に自分たちで考え続けた方が良いと思っています。

新卒は「火をつけて3年寝かせる」。イノベーターの芽吹かせ方
──社内の活きの良い人材をどのように生み出すのか、どのように育てるのかについて伺えますか。大企業のアセットを新卒の方が最初から理解して綺麗なアイデアを出すのは難しいと思いますが。
山本:コロナ禍で応募が減った時、どうにかしないと思い、新入社員研修に顔を出して「ビジネスコンテストをやっています」と宣伝しました。新入社員はまだ業務負荷も高くないなどの理由から、心理的ハードルが低く、「すごくやりたいです」という声は多く上がります。ただ私は、火をつけるだけつけておいて、次にやるべきことは「2、3年放置すること」だと思っています。
大学で考えたやりたいビジョンも、実際に働いて見えてくる世界によって違ってきます。3年ほど経って仕事を覚え、色々見えてきた上で「本当にやりたいことはこれだ」と思い始める。その「3年寝かせた人たち」に応募してもらうと、提案の質や事業化のスピードが格段に上がります。
──種まきは必要だけれど、芽吹くのは2、3年後だから待つというのは非常におもしろいですね。新規事業家は社内で作り出しているような感覚なのですか?
山本:会社としての研修制度でうまく育て上げられるとは全く思っていません。毎年、ポテンシャルを持った人が数人は入ってきています。こちらから無理に伸ばすのではなく、彼らが重要な気づきを得る良いタイミングで、事務局側から「良い問い」を投げることこそが非常に重要なのではないかと思っています。
──出口戦略から人材の生み出し方まで、大企業における新規事業のリアルが詰まった素晴らしいセッションでした。ありがとうございました。



