「お客様は神様です」の真意と顧客の不平等性
栗原:日本企業への導入にあたり、よく障壁として挙げられるのが「お客様は神様です」という伝統的な言葉です。この言葉は本来、歌手であった故・三波春夫氏が「神前で祈るように客前で最高のパフォーマンスを披露する」という意味で語ったものだとされていますが、いつしか「顧客の無理な要求もすべて受け入れるべきだ」と誤解されて広まりました。
フェーダー:その背景は非常に興味深いですね。「すべての顧客の要求に等しく応えなければならない」という誤解こそが、企業の前進を妨げる足かせとなってきました。八百万(やおよろず)の神々が存在するように、世の中には様々な神がいます。すべての神に敬意を払い基本サービスを提供する一方で、その企業ごとに格別に高い価値をもたらす「特別な神」が存在することも事実です。
私はこれを、自社にとって将来にわたり最大の経済的価値(CLV)をもたらす「正しい顧客」と呼んでいます。ただし誤解しないでほしいのは、これは顧客の優劣ではなく、自社の提供価値との“相性”や構造的な適合性の話だということです。ある企業にとっての正しい顧客が、別の企業ではそうではない、ということも当然に起こります。
また、「正しい顧客」を見極めてリソースを集中させると言っても、それ以外の顧客を切り捨てたりぞんざいに扱ったりするわけではありません。正しい顧客よりも価値が高くない顧客であっても、企業の日常的なベースとなる収益を支え、経営の安定を保つ「バラスト(安定器)」として極めて重要な役割を果たしています。
重要なのは、「お客様は神様だから」とすべての顧客の要求に等しく応えて過剰なサービスを提供するのではなく、顧客の多様性と不平等性を正しく認識することです。基盤となるお客様を維持しながら、最も価値の高い「正しい顧客」を見極め、そこに優先的にリソースを投入して関係を強化することこそが、顧客中心主義の真髄なのです。
栗原:日本のビジネス環境において、顧客中心主義の概念が普及・定着するためのポテンシャルについてどのようにお考えですか。
フェーダー:日本企業と顧客中心主義の親和性は極めて高いと感じています。日本企業は質が高くクリーンなデータを保持しており、消費者も目が肥えています。また、「中期経営計画」のように3~5年の長期的な時間軸で成果を評価するカルチャーは、四半期ごとの短期利益に追われがちな米国よりも、長期的な指標であるCLVと相性が良いと言えます。
栗原:本インタビューで、CLVの実践に興味をもった方は是非、書籍を手に取ってもらえればと思います。フェーダー教授、本日はありがとうございました。
