「顧客中心主義(Customer Centricity)」を構成する3つの要素
栗原:著書『カスタマーセントリシティ 「正しい顧客」に集中する経営戦略』(ダイヤモンド社)のメインテーマである「顧客中心主義」について伺います。この概念はどのような要素で構成されているのでしょうか。
フェーダー:100年前であれば「本が何部売れたか」という製品単位の測定しかできませんでしたが、現代では「誰がどれだけの価値をもたらしているか」を測定できます。顧客中心主義には、次の3つの要件があります。
1つ目は「戦略的な方向性の転換」です。「売る製品」中心から「支援する顧客」中心への大転換です。2つ目は「顧客の不平等性の認識」です。すべての顧客が平等に創られているわけではない、と正しく認識することが重要になります。3つ目は「測定と価値への紐付け」です。科学的手法を用いて意味のある数値(金額)に置き換え、企業の収益性を高めるために活用すること。これら3つの要件が「顧客中心主義」とは何かに対する回答です。
CLVとLTVの同義性と「4つの重要ワード」
栗原:実務では「CLV(Customer Lifetime Value)」と「LTV(Lifetime Value)」という用語が混在していますが、違いはあるのでしょうか。また、その正しい定義について教えてください。
フェーダー:結論から言えば、CLVとLTVは同じものを指しています。重要なのは言葉の違いではなく、その定義を明確にすることです。私にとってCLVの定義とは「顧客一人ひとりの『予測される将来の収益性』」です。

1つ目は「予測される(Projected):将来の行動に関する正確な確率を算出する」です。未来を確定的に知ることはできませんが、優れた統計モデルを用いて正確な確率を導き出すことは可能です。2つ目は「将来の(Future):過去の成果ではなく、これから生まれる利益に集中する」です。過去に獲得した利益は既に手元にありますが、企業が評価すべきは「これからどれだけの利益をもたらすか」なのです。3つ目は「収益性(Profitability):売り上げだけでなく、獲得・維持にかかるコストを差し引く」です。売上高(Revenue)だけを見るのではなく、顧客獲得コストや関係維持コストを網羅した「利益」を算出します。これにより財務・会計部門と共通の言語で語ることができます。最後の4つ目が「個人レベル(Individual):個人単位の粒度でモデルを開発・検証する」です。グループ単位で意思決定を行う場合でも、モデル自体は個人単位の粒度で機能しなければ信頼できません。
CLVの定義や理解において、上記の4つのキーワードは重要になるのです。
ビジネスモデルに応じたCLV計算モデルの最適化
栗原:企業のビジネスタイプや業界によって、CLVの測定手法は変えるべきでしょうか。
フェーダー:そのとおりです。極端に「自社だけに特別なモデルが必要だ」と考えるのも、「万人に合う単一のモデルがある」と考えるのも間違いです。
基本的には、サブスクリプションなどの「契約型」と、都度購入する「非契約型」の2つに大別されます。契約型では「解約率(チャーン)」や「維持率(リテンション)」が指標になりますが、非契約型では離脱が明示的ではないため、「最終購入日(Recency)」「購入頻度(Frequency)」「購入金額(Monetary)」を組み合わせたRFMの枠組みに基づき、将来の生存確率を推計する複雑なモデルが必要になります。
