なぜAI時代の新規事業は「一度使われて終わる」のか──ビービットに学ぶ、持続可能な「地形」のUX戦略
ゲスト:ビービット 取締役 COO 藤井保文氏、執行役員 平井剛直氏、廣橋沙紀氏
「多産多死」の組織がAI時代の事業を制する
大久保:そうした試行錯誤を形骸化させず、組織として事業を成功へ導くためには、どのようなマインドセットが求められますか。
平井:身も蓋もない言い方ですが、「多産多死」の発想を組織が受け入れることです。一発で正解にたどり着くことなど不可能なのですから、誰のペインをどういうからくりで解決できるかを見極めるために、たくさんの試行錯誤が日常的に回り続ける組織の仕組みを整える必要があります。
廣橋:私たちがプロトタイプ検証で見ているのは、「正しく使ってくれているか」ではなく、「使った結果、ユーザーの生活や行動がどう変わったか」です。提供者側の願望を捨て、生活の中にどう馴染んだのかという変化を冷静に観察することが大切です。
藤井:組織体制の面では、大企業特有の「分業体制」を打破する必要があります。つくったら運用部門に渡して終わりというモノづくり型の発想や、「アプリ担当」「店舗担当」「EC担当」とKPIが分断されている組織では、全体の体験がちぐはぐになってしまいます。川に橋を架ける人と道をつくる人がバラバラでは、利用者は目的地にたどり着けません。部門を越えて顧客体験を一本の線として統合する視点は、経営レベルで持たなければならない課題です。
変化し続ける「地形」に合わせて事業をアップデートせよ
大久保:最後に、不確実な環境の中で新規事業に挑むBiz/Zine読者へ、皆様からメッセージをお願いします。
廣橋:UXデザインというと「正解の形」があるように思われがちですが、実際には現場の泥臭い観察と調整の連続です。最初はうまくいかなくても、生活者の小さな「引っかかり」に気づき、仕組みを少しずつ直していく。その終わりのない改善のプロセスそのものを、チームで楽しんでいただけたらと思います。
藤井:AI時代において、企業が提供できる価値の広がりは無限大です。自社の製品や技術を「単なるモノ」に閉じ込めず、新しい体験としてどう届けるか。最初から一つの正解に絞り込まず、小さな実験を繰り返しながら、変化し続ける「地形」に合わせて事業を柔軟にアップデートし続けてほしいと思います。
平井:実は、本書にまとめた内容はビービット自身の直近10年の奮闘の結果でもあります。『アフターデジタル』を出す少し前から、私たちも「画面のUI改善」だけでは通用しない現実に直面し、生活の文脈や現場オペレーションへどう踏み込むか、泥臭く試行錯誤を重ねてきました。大企業で新規事業に挑む皆さんも、同じ葛藤を抱えていらっしゃるはずです。ぜひ本書を手に取っていただき、実践の現場から率直な議論を交わし合えることを楽しみにしています。
大久保:画面のUIにとどまらず、多様なステークホルダーの行動を定める「地形」を捉え直すこと、そして泥臭く検証を回し続けることの重要性は、AI時代に事業開発を率いる読者にとって重要な指針になると感じます。本日は示唆に富む貴重なお話をありがとうございました。
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