“評価問題”を解決するコーチによる「リアルタイム・フィードバック」とは
宇田川(埼玉大学 人文社会科学研究科 准教授):
10のトレンドの中の「パフォーマンス・マネジメント」についても伺えますか。
土田(デロイト トーマツ コンサルティング合同会社 執行役員 ヒューマンキャピタルリーダー):
これは非常に面白いテーマです。私はコンサルタントを始めた若い頃、評価なんていらないのではないかと考えていたのですが、このテーマには「それが形になるとこうなるのか!」という発見があって、この仕事をやっていて良かったと思います。
「評価の問題点」は、相矛盾するような複数の目的がひとつのパッケージに入って複雑化していることです。評価の一番の目的は、より高い成果を創出することです。そうすれば会社も儲かる、従業員の取り分が増える、本人も達成感が得られるし、より高い成果を達成する過程では成長できる、というふうに、結局は全てを解決しますから。ですが、「評価が報酬配分と結びついた途端」にゲームになってしまいます。目標を低くして高く達成した時はボーナスが増えるのであれば、高い目標を設定するのなんて馬鹿らしいと。そういうメカニズムなので、評価を本来の目的のために使おうとするならば、評価結果で給料を決めなければ良いということになります。
評価の目的を一番大事な、「より高い効果を創出させる」というところに集中させると、例えばコーチのような人が必要とされてきます。仕事が終わってから「あれはどうだった」と後講釈をするのではなく、やっている最中にその場で本人に「これはこうしよう」とか「ここはこのまま進めよう」などフィードバックをしてあげる人ですね。そうすれば、回り道をせずに高いところに行けるかもしれませんから。また、ロングタームの目標なんて立てるだけ無駄だと考えるところも増えています。VUCAの時代には1年後にどうなっているかなんてわからないのだから、1年ではなく3ヶ月など、見える範囲でリアリティのあるコミットをしようということです。
宇田川:
常にフィードバックをしながら、目標設定もアジャイルにやっていこうということですね。
土田:
はい。高い評価を得るための競争するのではなく、みんなで同じ目的に向かってより高い成果を求めていこうというのは、すごく健全ですよね。
宇田川:
あるべき姿ですね。
土田:
ただ、困っているのは報酬をどう配分するか。これは実はあまり解がなくて、いろんなチャレンジがあります。ひとつヒントになると言われているのは、先にお話したエンプロイー・エクスペリエンス(従業員の体験)やダイバーシティの観点ですね。求めるものは人によって違うということが、かなり重要視されるようになってきています。
昇進したい人もいれば、給料を上げて欲しい人もいるし、違う仕事をしたい人もいる、あるいはお金より休みが欲しい人もいて、本当はいろんな思いがある。それを、みんなは高い給料が欲しいはずだとか、あたかも同じニーズであるように扱っているのが、現状で多く見られる人事制度です。それではみんなが満足することはないので、一人ひとり変えたらどうかということが研究されています。概念的には、人が1000人いたら1000通りのエンプロイー・エクスペリエンスを与える、ということがテクノロジーで実現できるはずだと。一人ひとりのニーズに徹底的に応えるようになれば、同じ基準で人を順位づけするレーティングの制度は不要になるはずです。
宇田川:
今、「HRTech」が流行っていて、ビッグデータを活用するのは傾向性を見るのには有用だと思いますが、同時に個々がどうしたいのかを丁寧に問うていくことが、大事ですよね。