リーダーにも成長が求められる、未来視座のフューチャーバック思考の獲得
社内の新規事業には、既存事業とは異なる開発プロセスも必要になる。時間が掛かるだけではない。新しい事業には、仮説を立て、実験を行い、学びながら事業を立ち上げる組織学習が必要だからだ。計画を立て、それを実行展開するウォーターフォール型のプロセスを前提にしたまま、不確実性の高い新規事業は立ち上げることができない。「知らないことを知らない」まま、計画を立案し実行してしまうのは、成功している大きな事業を持つ大企業がやりがちな過ちである。
ポートフォリオに適した組織の設計ができれば、その組織を立ち上げていく。小さな組織で少しずつ結果を出すことで、次第に全社にも認められる存続できる組織になる。組織を立ち上げ、成果を出していくのも小さなイテレーションを回すことが大切だ。
現場を切り盛りしてきたリーダーにとって、このような未来視座に立ったリーダーシップを発揮するのは容易ではない。組織の長期的な存続と成長に責任を持っている経営者にとっても、破壊的イノベーションによって破壊される時代の舵取りには試練が伴う。未来に備えるためのフレークワークを持たないまま、重要な意思決定を現在のリーダーは行わないといけないのだ。
長期的にイノベーションを起こせるような組織を率いるには、未来視座のフューチャーバック思考と、現在起点のプレゼントフォワード思考を切り替えられるのが理想だ。本書に記された考え方を実践することができれば、リーダー自身だけでなく組織の成長を果たすことができる。
本書の最後は、リーダーが直面する成長と、その効果について述べられている。また、営利企業に限らず、教育機関や軍隊、政府などにもフューチャーバック思考が適していると語る口調はクリステンセンを彷彿させる。クリステンセンは破壊的イノベーションの理論を人生に当てはめ、名著『イノベーション・オブ・ライフ』として発表した。氏を惜しむ声の多くが、一番好きな著書として『イノベーション・オブ・ライフ』を挙げていたことは記憶に新しい。また、クリステンセンの遺作となった『繁栄のパラドクス』は人の暮らしが前進するようなイノベーションと、国の繁栄についての本だ。本書も最後はビジネスという営みの「目的」について改めて考えさせられる読後感が味わえる。