日本企業ならではの第二創業のヒントがSECIモデルにある
──前回の対談で触れられた「SECIモデルを『両利きの経営』のサブ・モデルとして包摂すると、日本企業のトップとミドルの連携力の再生につながる」という考えについて、詳しく教えてください。
梅本 龍夫氏(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授/立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科客員教授/iGRAM代表取締役 物語ナビゲーター、以下敬称略):「両利き」を提唱したオライリー先生たちはトップのリーダーシップこそが重要だとおっしゃいますが、日本の企業ではそれだけだとうまくいかないでしょう。米国ではトップダウンでロジカルにタスク分解して現場が動く仕事の仕方が根付いていますが、日本はそうではありません。トップの示す物語に共感した人たちがフォロワーシップを発揮するときに、事態が動き出すのです。
SECIモデルが提唱された頃の日本では、まさにそういうことが起きていました。だから多くの日本人は、暗黙知が形式知へと変換していくプロセスを身体感覚として知っています。でも、欧米の人にとってはそこが分かりにくいようです。SECIモデルがどうして実現するのか、論理的な説明が不足しているように感じられるという意見をよく聞きます。
だからこそ、SECIモデルには日本的な企業の再生を促す可能性があるんじゃないでしょうか。
加藤 雅則氏(アクション・デザイン代表 エグゼクティブ・コーチ、組織開発コンサルタント、以下敬称略):米国の企業にはできないやり方で第二創業に向かうヒントが、SECIモデルにあるというわけですね。
梅本:欧米でSECIモデルが理解されづらいのは、「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」を4つのステージと捉えているからだと思うんです。これを4つの越境プロセスだと理解すると、断然分かりやすくなるはずです。
加藤:確かに、そう考えると分かりやすいですね。
梅本:そうしたときに、前回お話しした「物語マトリクス理論」の4つのステージの境界1から4に「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」を順に位置づけると、バシッと当てはまります。さらにSECIモデルを物語マトリクスに当てはめると、マトリクスの上側が「自治」(コミュニティ、共同体的な活動領域)で、下側が「統治」(ガバナンス、機構としての組織)であると読み解けます。
「物語マトリクス」のスタート地点、起承転結の「起」は左下の「日常/欠落」のステージであり、ガバナンスが効いた公式組織における暗黙知のステージと言えます。前回、日本企業はこのステージから動き出すことができず、失われた30年を通じて進化できなかった、というお話をしました。最近はSECIモデルがうまく機能している事例をあまり聞かないのも、SECIモデルの理論上の問題というより、この左下のステージから左上のステージへと越境する「共同化」が、ガバナンスが効きすぎたことで起きづらくなっている企業環境があるからだと思うんです。