過去の新規事業が中核事業へ成長。くろよん魂以来のチャレンジ精神が関電のDNA
中垣徹二郎氏(以下、敬称略):本日は関西電力でイノベーション活動をリードする浜田さんと神田さんの二人をお招きしました。エネルギー業界というと、堅めな社風や外部との隔たりが大きいイメージがありますが、そのなかで関西電力は非常にチャレンジングで斬新なイノベーションに取り組まれています。その動きには前職のVC時代から注目していました。まずは、関西電力の新規事業やイノベーションの取り組みについてご紹介いただけますか。
神田康弘氏(以下、敬称略):組織体制からお話しするとわかりやすいと思いますが、関西電力グループの中核事業領域は、送配電を含むエネルギー、情報通信、生活・ビジネスソリューションの3つです。
もちろん祖業はエネルギー・送配電事業であり、今でもグループ売上高の大半を占めています。ただ、私たちの特徴は、90年代以降に新規事業として着手した情報通信事業や生活・ビジネスソリューション事業が、グループの事業規模に相応しい売上に成長していることです。電気通信事業者のオプテージなどを包括する情報通信事業は売上高約3,000億円。不動産デベロッパーの関電不動産開発などを含む生活・ビジネスソリューション事業は約2,000億円と、グループ売上全体のなかでも一定以上の規模を占めています。
中垣:もともとは新規事業だったビジネスが、中核事業に位置付けられるまで成長していますよね。電力会社に保守的なイメージを持っている人は、この取り組みに対して驚くと思いますし、その具体を聞きたいのではとないかと。
浜田誠一郎氏(以下、敬称略):今でもエネルギー事業が、私たちのコアであることは変わりないです。ただ、一方で、旧一般電気事業者である10電力会社のなかでも「新しもの好き」なところはあります。他社に比べると、エネルギー事業が占める売上高の比率は低いですし、電力業界のなかでは一風変わった会社と認知されているのではないかと。
神田:関西人の気質なんでしょうか(笑)。新しいものに対する感度は高いようです。2021年3月に「関西電力グループ経営理念 Purpose & Values」を策定したのですが、そのなかにもイノベーションに対する姿勢が盛り込まれています。新しい経営理念では、私たちの存在意義を「『あたりまえ』を守り、創る(Serving and Shaping the Vital Platform for a Sustainable Society)」、大切にする価値観を「『公正』『誠実』『共感』『挑戦』」と定義しています。これらには英語訳が当てられているんですが、「挑戦」は「Challenge」ではなく「Innovation」と訳しました。組織全体でイノベーションに取り組んでいこうという意欲が込められています。
では、私たちにとってイノベーションとは何かといえば、1つ目は新規事業や新サービスを生み出すこと、2つ目は既存事業のオペレーション変革、3つ目はこの2つを創出しつづける仕組みを作ることです。
現在も新規事業としては、分散型サービスプラットフォーム(E-Flow合同会社)を基盤としたVPP事業や系統用蓄電池事業などの推進と拡大、米国のデータセンター開発・運用事業者であるCyrusOne(サイラスワン)社と合弁でハイパースケールデータセンター(HSDC)事業の立ち上げなどを行っています。それに加えて、社内起業制度で立ち上げたTRAPOL(トラポル)社による地域のヒトや自然といった既存資源を活用した誘客コンサルティングなどの地域創生事業、買収によりグループ会社化したポンデテック社による障害者雇用特例子会社との協業による電子機器再生・販売事業などの社会課題解決型の新規事業にも取り組んでいます。
特に、1998年から続く社内起業制度の「かんでん起業チャレンジ」では、これまで発案者から出資も受けて9社を輩出し、そのうち3社がイグジット(1社はグループ外へ売却)しています。こうした経緯からもわかるとおり、起業家精神を有する社員を後押しし続けてきた組織だと思います。