日本版FP&A導入を成功させる「6つのステップ」
栗原:なるほど。日本企業の特性にあわせて開始する必要があるのですね。では、実際に「日本版FP&A」を導入し、成果を出すためのステップを教えてください。
池側:FP&Aは特効薬ではなく、経営トップから現場までを巻き込む、何年もかかる変革プロジェクトです。導入と成果創出には、大きく「6つのステップ」があると考えています。
ステップ1:トップによる明確な目的の設定
池側:まず、CEOとCFO(最高財務責任者)が「なぜFP&Aを導入するのか」という目的を明確に設定することが出発点です。「資本コストを意識した経営への変革のため」「事業ポートフォリオ入替を迅速化するため」など、自社の経営課題と結びついた明確な目的をトップが示す必要があります。
ステップ2:企業の組織変更を行う
池側:次に、FP&Aを担う体制を整えます。理想はCFOが経営管理人材(経営企画や経理・財務の一部)をFP&A組織として配下に置き、事業部門にもFP&A人材を配置する、といった抜本的な組織変更です。
ただ、日本企業では組織変更のハードルが高い場合も多いため、まずは既存組織のメンバーが「兼務」でFP&Aチームを立ち上げるなど、できる範囲で体制を構築することから始めます。
ステップ3:FP&Aの組織・人材育成
池側:組織を作っても、担う人材がいなければ機能しません。前述のとおり、日本にはFP&Aの専門家が圧倒的に不足しています。日本CFO協会が提供する研修の活用や、FPAC(公認FP&A資格)やUSCMA(米国公認管理会計士)などの資格取得支援を通じて、専門人材を計画的に育成する必要があります。経理人材は事業部門で事業理解を深め、事業出身者は会計・ファイナンスの基礎を学ぶ必要があります。
ステップ4:FP&Aの役割の明確化
池側:育成した人材が「何をする人なのか」を社内で明確に定義します。単なる「予算・経費管理」ではなく、「戦略の事業計画への落とし込み」「業績目標の達成支援」「意思決定の質向上」といった、事業責任者の「ビジネスパートナー」 としての役割を明確に定義し、評価制度にも組み込むことが重要です。
ステップ5:効果的で効率の良い計画・業務プロセス、システムの整備
池側:FP&A担当者が「分析」や「事業部との対話」といった「ビジネスパートナー」業務に時間を使えるよう、非効率な業務を徹底的に削減します。
Excelの手作業によるデータ収集・集計、膨大な会議資料作成といった定型業務を標準化し、ITツールやシステムを導入して自動化・効率化を図ります。経営管理・予算管理のプロセスなども見直します。
ステップ6:CEO・CFO組織の継続的コミットメント
池側:導入後も、派遣したFP&A担当者が孤立したり、従来の業務に忙殺されたりしないよう、上司やメンターが継続的にサポートする必要があります。FP&Aが単なる「流行り」で終わらず、企業文化として定着し成果を出し続けるには、経営トップとCFO組織の継続的な関与と支援が不可欠です。
