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山口周が語る、AI時代のリーダーと事業開発の条件──アジェンダ設定力とスマイルカーブの両端へのシフト

ゲスト:独立研究者、著作家、パブリックスピーカー 山口周氏

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人間の仕事は「両端」のスマイルカーブに移る

栗原:生成AIの進化がさらに加速するこれからの時代、ミドルマネージャーやビジネスパーソン個人が担うべき役割は、具体的にどう変容していくのでしょうか。

山口:いわゆる「ホワイトカラーの消滅」が、驚くほどの速度で現実化しつつあります。知的生産のバリューチェーンを分解してみると、AIが得意なのは「情報の収集・分析・統合・出力」という下流・中段のプロセスです。かつて若手コンサルタントやミドルマネージャーが膨大な時間をかけてシミュレーションし、綺麗なパワーポイントの資料にまとめていた作業は、今やAIが数秒で完遂します。その結果、中段の業務のコモディティ化が進み、価値の源泉が最上流と最下流にスライドする「スマイルカーブ現象」が起きています。

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山口周『コンテキスト・リーダーシップ 「最高の上司」と「最悪の上司」は文脈で決まる』(光文社、2026年)

 では、人間に最後に残される「両端」の仕事とは何か。それが最上流の「アジェンダの設定(そもそも何を問うべきか)」と、最下流の「実行のリーダーシップ(生成された提案をどのような物語として人々に語り、組織を動かすか)」にほかなりません。

 AIは過去のデータの統計的パターンから正解を導くことは得意ですが、誰もが当たり前だと思っている前提を疑い、「これっておかしくないか?」と新しい問題を提起することは原理的に苦手です。また、どれほど優れた分析結果が出ても、冷徹な数字の羅列だけでは人間の心は動きません。これからのリーダーに求められるのは、数値を管理する「数字の管理者」ではなく、仕事やプロジェクトにポジティブな意味のナラティブ(物語)を与え、人々のモチベーションをレーザーのように一方向に集約する「意味の管理人」なのです。

コンテキストの読解力を養うために、まず「新聞」をやめてみる

栗原:人間に残された仕事が「コンテキストを読み、アジェンダを設定すること」、そして「ポジティブな物語から人を動かすこと」だとすれば、私たちは日々の生活の中で、どのようにしてその「読む力・編む力」を鍛えればよいのでしょうか。

山口:極めて実践的なアドバイスを1つするならば、まず「毎日新聞を読むのをやめる、テレビのニュースやSNSのタイムラインを遮断してみる」ことです。

 現代のビジネスパーソンは、日刊のニュースという「足元の10センチ」だけを見て右往左往させられています。マスメディアやSNSが市場原理の中で流してくる情報は、本来どうでもいいようなスキャンダルや場当たり的な時事ネタを“ふくらまし粉”で膨らませた、いわば「知的な栄養分のないジャンクフード」です。それに脳のリソースを奪われているから、大きな積分値としての時代の文脈が読めなくなる。

 ゲーテが『格言と反省』の中で語っているように、試しに1ヵ月間ニュースを遮断して、後からその1ヵ月分をまとめて流し読みしてみてください。驚くほど「知っていること、どうでもいいこと」しか残らない事実に気づくはずです。情報が入ってくるリズムを意識的にゆっくりにして、パルスを落とす。日刊のニュースを見る時間を、歴史・哲学・宗教・芸術といった、人間洞察の「見えない設計図」を記述した、普遍的な書籍を読む時間へと転換することです。

 2026年現在の日本経済は長い停滞を抜け出しつつありますが、欧米型の資本主義の限界が露呈する中で、私たちが自らの文化や歴史に根ざした「新しい持続可能な物語(ナラティブ)」を世界に語りかけられるかどうかが問われています。与えられた問題に速く正確に答えるだけの古い優秀さのパラダイムを捨て、他者と調和しながら新しい星座を描き直していくこと。そのコンテキストの編集力を自らの身体感覚として体得したリーダーこそが、これからの複雑な時代を確かな足取りで歩んでいけるのだと確信しています。

栗原:本日はありがとうございました。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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