無駄な業務をAIで高速処理する「足し算の罠」
栗原:既存フローにAIを“足し算”することに目が奪われがちですが、角田さんは「まず引き算(捨てること)が先だ」と主張されています。不要な業務を残したままAIを活用した効率化を試みるとどうなりますか?
角田:AIはある種の「加速装置」です。そのため、本来不要なプロセスにAIを適用するのは、無駄な業務を高速回転させるだけという皮肉な状態に陥ります。結果として、誰のためにもならない成果物が組織に量産・蓄積されかねません。
業務改善のフレームワークである「ECRS(イクルス)」でも、まずは「E(廃止)」から始めることを説いています。これはAI時代においても不変です。
誰も読まないレポートをAIで一瞬で作れるようになっても、会社の価値は上がりません。投資対効果を最大化するには、効率化・単純化(Simplify)する前に、そもそもその業務が必要かを問い直す「引き算」が絶対条件です。
改めて生産性を数式で定義すると、以下のようになります。
現実的にはこの定義が曖昧なまま議論が進み、「どう生産性を向上させるか」を延々と議論して実際の削減アクションが遅々として進まないケースが多々あります。しかし、この公式の認識さえ揃っていれば、“捨てる”行為はすなわちインプットの減少であり、アウトプットを大きく損なわない限りは、早く実施するに越したことはないのです。
現状維持バイアスを打破する「トップの宣言」と「経営陣の責任引き受け」
栗原:大企業が業務を「捨てられない」構造的な理由を詳しくお聞かせください。
角田:最大の理由は、組織拡大に伴う「捨てるための調整コストの高さ」と、それに伴う「心理的ブロック(現状維持バイアス)」です。業務が地層のように積み上がる中、現場マネージャーからすれば「やめること」で万が一トラブルが起きた際の責任リスクがあるため、「これまで通り続けておくのが安全」という心理が働きます。
私が過去に在籍していた企業でも、コスト削減でリソースが絞られても、本質的なプロセスの変更(捨てること)にはなかなか行き着きませんでした。その原体験があるからこそ、kubellでは現場が恐れる「捨てることへの責任」を経営が引き受ける姿勢を明確にするため、経営陣が主導する仕組みを作りました。
