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『人工知能が金融を支配する日』著者が日本のFinTechに警鐘

櫻井豊氏インタビュー

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FinTechの光と影

――FinTechがここ数年高まってきた背景を、金融業界にいらした立場からどう見られていますか?

櫻井 基本的には、アメリカのベンチャー・キャピタルとコンサルティング・ファームが2010年にカンファレンスなどで火をつけたのが始まりだと考えています。背景としては、リーマンショックでそれまでの金融機関の成長路線が完全にへし折れてしまったということですね。金融とテクノロジーというアドバルーンは金融サービスに参入しようとするベンチャー企業、それをサポートするコンサルティング・ファームやIT業界の共通テーマとしてちょうど良かったのではないでしょうか。

一方、既存の金融機関としては、こうした流れに取り残されるわけにはいかないからテクノロジー利用に追従したということだと思います。
それと比較すると日本の流れは少し歪んでいて、最初に欧米のブームが紹介されたもののベンチャーも大した数ではないので、どちらかといえば大手の金融機関が話題性で乗っかってきたものだと思います。

――AI、ブロックチェーンはかなり喧伝されていますが、金融のコア業務に対するインパクトはどうでしょうか?

櫻井 米国の場合、ベンチャー企業がレンディング(融資)や資産運用のレベルの高いサービスを適用するようになって、それに対して既存の金融機関がキャッチアップする動きになっています。実は以前のネット銀行が起ち上がった時も、欧米は同じ状況でした。ベンチャーが始めて既存の銀行が買収してサービスを取り込んでいったのです。日本の場合、既存の銀行がネット銀行を始めたが大して良いサービスにならず、一方のベンチャーのネット銀行もそこそこ成功したところはあるものの大して伸びなかったという経緯があります。

そこが日本とアメリカのFinTechの大きな違いでしょう。欧米では、FinTechの中心はレンディング(融資)と資産運用という金融の中核業務なのです。そこでは、お金の借り手と貸し手が直接結びつくことで、銀行や証券会社の今の役割が不要になるかもしれないという破壊的な可能性を秘めています。
ブロックチェーンは現状のサービスのコスト削減につながるかもしれませんが、金融サービスのあり方を根本的に変えるほどのものになるにはまだまだ先で、今はまだ技術的な問題が山積していると思います。

日本の大手金融機関がブロックチェーンばかり言うのは、レンディングや資産運用という中核業務を自ら破壊することはできない一方で、AIをどう利用したらよいのか分からないので、消去法的にブロックチェーンをテクノロジー利用の宣伝材料として飛びついたからかもしれません。

大手金融機関としては、ブロックチェーンは本業を脅かすものではなくて、本業を効率化するという位置づけで乗りやすかった。大手金融機関がまず乗って、コンサルティングファームとIT系企業が乗り、株式市場が煽ったという構図ではないでしょうか。

『人工知能が金融を支配する日』(櫻井豊:著 東洋経済新報社) Amazonへのリンク

日米のFinTechのギャップ

――今回の『人工知能が金融を支配する日』(東洋経済新報社)では、日本のFinTechに問題提起をされていますね。

櫻井 この本の主題は、日本のFinTechの現状が、それぞれの都合によって歪められていて、本当に金融サービス自体を良くして次の世代の金融サービスを作っていくという方向になっていないんじゃないか、ということなんです。

日本のFinTechの現状が、表面的なブームにとどまっていて、たとえば日本のメガバンクはブロックチェーンの取り組みを発表していますが、スケーラビリティの技術の限界などはほとんど語られません。

――とはいえ、日本では政府、日銀、三菱東京UFJ銀行などの大手金融機関がFinTechに前向に取り組みだした状況です。

大手銀行が、顧客により良いサービスを提供すること自体は良いと思いますが、役所的な文化や経営陣のノウハウから考えるとかなり難しいのではないでしょうか?個人的には、現在のベンチャーやネット金融機関が発展していくことや既存の金融機関からスピンアウトが生まれてくることに期待しています。

この本では、欧米のヘッジファンドなどの裏事情に疎すぎること、護送船団時代の企業文化の足かせ、縦割り型組織、経験と勘重視の現場、目先の手数料を追う証券会社、規制に守られてきた生保、などなどの条件が変わらないかぎり、FinTechで日本の金融が変わることはないだろうという指摘をしました。

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