競争ではなく「棲み分け」による、組織の進化のスタイル――排他的でなく協調をベースとしたシステムへ
武井(ダイヤモンドメディア株式会社 代表取締役 共同創業者):
社会全体で考えると資源には限りがあるので、こっちで取ったらあっちで足りない、ということが起こりますが、会社の中では全体として増やしていくこともできると思うんです。会社として今何をやっているのかとか、どういう資源をどう使っているのかをみんなで共有することで、澱みがなくなってよく進むようになると感じています。
池上(株式会社オルタナティヴ・マシン[Alternative Machine Inc.] 最高科学責任者 / 東京大学大学院総合文化研究科 教授 理学博士):
生態学者の今西錦司の進化論はそういう考え方かもしれない。普通、進化論というのは「競争」として捉えられますよね。でも彼の「棲み分け理論」では、あらかじめ決まった場所に種が生まれてくるだけだから競争はない、単に棲み分けているんだという考え方なんです。
武井:
その考え方はすごくよく分かります。事業に成功したと言われている方々の中には、わりと目先のこと……どうしたら効率的に儲けるか、といった点に重きを置いている方も多くて、そこには必然性が少ない気がするんです。僕は必然性がすごく大事だと思っていて、そこから生命的な仕事が生まれると思うんですよ。
池上:
「生命的な仕事」、すごくいいですね!
武井:
目標を持たないことで生命的になれるというところがあって。なぜなら、組織の目標があって、いついつまでにこれを達成しなきゃいけないというのは、究極的には経営者のエゴなんですよ。目標を持たない組織ならば、世の中に今何が求められているのか、という概念しか残らないので、経営戦略論でいうブルー・オーシャンの領域を自然と見つけ始めるんです。組織全体として生命的になっていって、自分たちの生存確率を高めるための嗅覚が高まっていくから、他社とも共存ができるようになっていくんです。
池上:
排他的でなく協調をベースとしたシステムを考えていかなければいけないという、先ほどの話につながりますね。
宇田川(埼玉大学 人文社会科学研究科 准教授):
ダイヤモンドメディアの場合、形式的な理念はないけれども、例えば「フェアな社会っていいよね」みたいなところは、“なんとなく”みんなが合意している感じがありますよね。
岡(株式会社オルタナティヴ・マシン代表取締役/筑波大学システム情報系 准教授 工学博士):
それを理念とは呼んでいないかもしれないけれど、何か共有しているものがあるのですね。
武井:
言葉にできないものですね。
宇田川:
前回、プロックチェーンの先という話がありましたが、『ブロックチェーン・レボリューション』を書いたドン・タプスコットが『ウィキノミクス』で言っているのが、ウィキペディアなどのピア・プロダクション(対等な者同士が知識を共有し合って発展させていくこと)と呼ばれるような世界でも、ある種のルールはあるということなんです。Linuxなんかはより分かりやすいですね。エンジニア同士ってソースコードを見れば相手がどのぐらいのスキルかが把握できるらしいんですよ。お互いのことがある程度分かって、良いOSを作りたいよね、という感覚は共有しているから、全然違うコンテクストにある者同士がコラボレーションできると。こういうところから、旧来の競争的な関係とは違う在り方が見えてくるのかなと思います。お互いにある程度共有する基盤みたいなものがあって、そのうえでバラバラなものがくっついたり、あるいは参加も不参加も自由だったりというような形が。