「専門家」と「戦略家」を両立する知財人財育成ロードマップ
では、味の素グループの人財や組織は、知財戦略においてどのような役割を果たしているのだろうか。講演の後半では、味の素グループの人財育成や組織構築について話題が及んだ。
「我々は、知財戦略を実践するための人財資産や組織資産、AIなどのデジタル技術を知財基盤と呼んでいます。ポイントは実践です。単に知財戦略を支えるためではなく、戦略を実行し実現するための人的・組織的なリソースを知財基盤と定義しています。つまり、知財基盤は動的なリソースであり、継続的な強化や拡大が必要です」
知財基盤への取り組みを表すものとして、泉井氏は人財育成のロードマップを示した。味の素グループでは弁理士資格の取得者など専門知識を有する人財を「知財スペシャリスト」、知財を活用した戦略策定や事業創出を担う人財を「知財ストラテジスト」と定義し、その2つを両立した人財の育成に取り組んでいる。

具体的には、入社直後から知財の基礎知識の習得を開始し、階層別研修やIPランドスケープの1on1研修などを組み合わせて実施。実務への知財スキルの活用を促すほか、弁理士資格取得や海外法科大学院への留学などの制度を通じて、専門的な知識の習得も後押ししている。

また、こうして積み上げた個人の知識やスキルを、組織の知として昇華する体制も構築。個人の知識を組織に還元し、それによって強化された知財基盤がさらに個人の成長を支えるといった、「知の循環」の仕組みを築いている。
泉井氏は知財戦略の全体像と味の素グループの価値創造の今後を語った。
「我々は味の素グループの成長戦略に基づき、事業、R&D、知財が一体となった三位一体の知財戦略を策定・遂行することで、戦略的な知財ポートフォリオを構築しています。さらに、そうした知財を積極的にビジネスに活用することで、事業の拡大や創出を実現し、結果的に社会価値や経済価値の創出につなげていきます。そして、この知財戦略を実践するためには、IPランドスケープによる提案や知財基盤の強化が必要不可欠です。加えて、知財活用の好事例を社内外に発信し、評価を高めて、知財のエクセレントカンパニーとしての認知を獲得したいと考えています」