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ヘルスケアイノベーター探訪

ベテランの「暗黙知」を組織の「形式知」へ。LifeScan JapanがAIで実現する人材育成の変革

第10回 ゲスト:LifeScan Japan 西川勇人氏、裏田亜里沙氏

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「MAIA Japan System」導入で見えた数字と組織の変化

大角:AIに頼ることで、営業担当者自身の思考が停止してしまう懸念はありませんでしたか。

裏田:その点は非常に重要視しました。導入時には、全社員に対して「これはあくまで優秀な新人アシスタントであり、パートナーです」と繰り返し伝えました。AIの回答はあくまで参考情報であり、担当施設の状況や医療従事者との関係性を踏まえた上で、最終的な判断は自分自身で行うよう指導しています。また、各チームにAI活用の推進役である「アンバサダー」を設置し、適切な利用方法が現場に浸透するよう働きかけています。

大角:実際に「MAIA Japan System」を導入後、現場ではどのような変化がありましたか?

裏田:AIだけの成果ではなく、上長や周囲の指導の賜物ではあるのですが、今年は新人から成功事例が共有されるケースが明らかに増えています。 通常、医療機器の導入決定には平均で9ヵ月ほどかかるため、新人が短期間で成功体験を得るのは簡単ではありません。しかし、そのスピードが格段に上がっています。

 ある新人からは「面談準備の時間が半分になった」という声も上がっています。社内アンケートでも、約20%ほどが「生産性が50%以上向上した」と回答しており、特に経験の浅い社員ほどその効果を実感しているようです。

大角:会社全体としての定量的な成果はいかがでしょうか?

西川:昨年の同期間と比較して、実績の伸長率は2倍以上になっています。もちろんAIだけの効果ではありませんが、組織全体のパフォーマンスが向上していることは間違いありません。

 さらに嬉しい効果として、チームの一体感向上にもつながっています。ベテラン社員が共有したナレッジが若手の成功につながり、感謝のメッセージが社内で飛び交うといった光景が見られるようになりました。

一般社団法人ヘルスケア イノベーション協会 代表理事/TXP Medical株式会社 執行役員 医療データ事業部 部長 大角知也氏
一般社団法人ヘルスケア イノベーション協会 代表理事/TXP Medical株式会社 戦略推進責任者(Strategic Development Officer)兼Medical Data Lab所長 大角知也氏

ベテランの「暗黙知」を組織の「形式知」に変えて組織力を底上げする

大角:西川さんは製薬業界から移られましたが、改めて医療機器業界の魅力と可能性をどうお考えですか?

西川:二つあると考えています。一つはスピード感です。医薬品は開発に10年以上かかることも珍しくありませんが、医療機器は比較的開発期間が短く、困っている患者さんの課題に対して迅速にソリューションを届けられます。

 二つ目は、チーム医療の一員になれるという手触り感です。医療機器は医師だけでなく、看護師や臨床検査技師など、多くの専門職の方々がチームで関わります。そのチームの一員として、患者さんの治療に直接的に貢献しているという実感が非常に強く得られるのが、この業界の大きな魅力だと感じています。

大角:最後に、西川さんが考える「ヘルスケアイノベーション」とは何か、お聞かせください。

西川:テクノロジーは、これまで個人の経験則や勘といった「暗黙知」であったものを、誰もが活用できる「形式知」に変え、組織全体のレベルを底上げする力を持っています。再現性を高めることで、誰もが質の高い価値を提供できるようになる。 それがまず一つのイノベーションです。

 そして私個人としては、人生100年時代と言われる中で、自分が情熱を注いできたヘルスケアという領域に、何かしらの一石を投じたいという強い思いがあります。それが製品やサービスであれ、人材育成であれ、この会社に関わったことで誰かの人生の角度が少しでも上に上がったと実感できたなら、自分の存在価値があったと思える。それが私の中でのプロ意識であり、目指すイノベーションです。

大角:属人化しがちな営業のノウハウをAIで形式知化し、組織全体の力を引き上げるという素晴らしい取り組みですね。本日はありがとうございました。

大角氏のまとめ

 医療機器業界における人材育成の課題は、単なる教育プログラムの充実ではなく、現場での「孤独」や「相談しにくさ」をいかに解消するかにかかっている。そんな当たり前のようでいて見落としがちな本質を、今回の取材で改めて考えさせられた。

 LifeScan Japanが取り組んでいるAIアシスタント「MAIA Japan System」は、テクノロジーを“便利な道具”として導入するだけでなく、長年のナレッジ文化と組み合わせて初めて成果を生んでいる点が印象的だった。ベテランの「暗黙知」を可視化し、若手が自信を持って行動できる環境をつくる、この取り組みは、業界や企業の枠を越えて多くの組織が参考にできるはず。

 ヘルスケア領域は人命を扱うがゆえに、参入の壁も高く、要求される水準も厳しい。しかし、西川氏が語った「チーム医療の一員としての手触り感」や、裏田氏が描く「いつでも聞けるパートナーの存在」は、そこで働く人々にとっての大きなやりがいでもある。テクノロジーが人間の成長と信頼関係の構築を支える未来。その可能性に、これからも注目していきたいと思う。

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この記事の著者

梶川 元貴(Biz/Zine編集部)(カジカワ ゲンキ)

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