企業価値評価は「複雑な社内ルール」の理解が必須
栗原:経営企画の重要な機能のもう一つに「ファイナンス(コーポレートファイナンス)」があります。管理会計(業績管理)と比較して、ファイナンスの重要性はどこにあるのでしょうか。
植西:経営企画が持つべきは「使う側(投資側)の視点」です。「資金調達をしたら、どうやって事業に投下してROI(投資利益率)を出し、資金調達者にリターンを返していくか」を司ります。
栗原:DCF法などの「バリュエーション(企業価値評価)」は、外部の専門ファームに依頼するケースも多いですが、社内で内製化すべきノウハウなのですか。
植西:M&Aの最終的な株価算定におけるお墨付き(フェアネス・オピニオン)を得る場合は外部に依頼しますが、社内の投資案件の試算は、経営企画がほとんどのノウハウを握って回すべきです。なぜなら、ファイナンスの計算には膨大な「社内のローカルルール」が存在するからです。
- WACC(加重平均資本コスト)をはじめとするハードルレート(最低限超えるべき投資リターン基準)を何%に設定するか
- 事業の陳腐化サイクル(液晶業界なら5〜6年、足の長いインフラなら20〜30年など)に応じて投資年数をどこで区切るか
- 海外子会社の評価や、再投資が発生した場合のキャッシュフローをどう織り込むか
これらの前提条件は、その会社の事業特性や経営戦略を深く理解している社内の経営企画にしか適切に設定できません。だからこそ内製化する必要があるのです。

「期間」で見る経理、「時間価値」で見る経営企画
栗原:「数字を扱う」という意味では経理部でもファイナンスができそうに思えますが、なぜ経理と経営企画は明確に分かれているのでしょうか。
植西:経理(財務会計)と経営企画(ファイナンス)では、根本的な「思考の軸」がまったく異なるからです。一言で言えば、経理は「期間(縦の軸)」で物事を見ますが、経営企画のプロジェクト管理は「時間(横の軸)」で物事を見ます。
■経理(財務会計)の視点:縦の軸(期間帰属)
外部への公式報告のために、無理やり特定の決算年度に数字を当てはめる(発生主義)。「2025年度はどういう業績だったか」という過去の記録が経理(財務会計)の時間軸です。
■経営企画(ファイナンス)の視点:横の軸(プロジェクト通算)
年度をまたいだプロジェクト全体の通算キャッシュフローを事実ベースで追いかける。「今、数千万円・数億円投資したら、将来の10年でどうリターンを生むか」という未来の設計という管理会計の時間軸です。
根本的に時間軸の考え方が異なっているため、実際の事業会社でも経理と経営企画が相容れない、会話が交わらないということがよく起こります。経理が「深く、正確に、過去を記録する専門性」だとすれば、経営企画は「広く、仮説をもって、未来を設計する汎用性」であり、積み上げるべきスキルセットがまったく異なるのです。
