教科書にない「実践知」を共有するためCCJを設立
梶川:課題の存在がわかっていながら、なぜ解消するのが難しいのでしょうか。
西条:根本的な原因は、担当者の大半が「CVC実務未経験のプロパー社員」であり、社内に経験者が0人という状態からスタートするからです。実務としては素人の集団になるため、どうしても外部のコンサルタントに頼って教科書どおりの美しい戦略や方針を作ることになります。
しかし、それを「自分事として腹落ちさせ、自分の言葉と熱量で仲間を作り、上司を説得して経営会議を突破する」ことは、経験のない担当者には非常に困難です。日本の会社特有の部門間のセクショナリズムやポリティクスに対処する方法論は、本には書いてありません。コンサルタントが描いた立派な戦略があっても、「どのタイミングで誰に話を通し、社長までどう持っていくか」といった泥臭いノウハウがなければ、実行段階で社内の壁にぶつかり頓挫してしまうのです。
梶川:そうした現場の生々しい悩みを解決するために「Counter Club Japan(CCJ)」を立ち上げられたのですね。
西条:そのとおりです。自社の言葉と強い熱量で上層部を説得し、社内政治を突破するためには、本に書かれた理論ではなく、「他社が実際にどうやって壁を乗り越えたのか」という生々しい実践知が必要です。CCJは、日本のCVC担当者が孤独な戦いから抜け出し、リアルな失敗談やノウハウを共有し合って実践力を高めるための場として設立しました。

新規事業の命運を分ける「正しい期待値調整」と「担当者の熱量」
梶川:CCJでは具体的にどのような事例が共有され、成果を上げているのでしょうか。
西条:CCJでは、Woven Capital、ENEOS Holdings, Inc.、KYOCERA Venture Fund、JAPAN AIRLINES VENTURES, Inc.、TGVP、三井化学(321Catalyst Ventures)、Yamaha Music Innovationsという7社の先進CVCをアンバサダーとしてお迎えしています。たとえばヤマハの場合、現地で外部プロを雇用した「投資チーム」と、本社事情に詳しいプロパー社員による「事業開発チーム」を分離・並走させ、トップが合理的に統合する組織設計を行っています。こうした構造を作ることで、日本人担当者の定期異動による関係性遮断を防ぎ、持続可能なプラットフォームを構築されています。
梶川:最後に、日本のCVC担当者や経営陣に向けて最も重要なアドバイスをお願いします。
西条:声を大にして言いたいのは「経営陣との正しい期待値調整」をしましょうということです。新規事業の成功確率が本来0.1%だとしたら、「CVCを使えばそれを1%に引き上げられるのでやるべきだ」と正しく説明しなければなりません。「絶対に成功させます」と無理な主張をすれば、数年後に結果が出なかったときにCVC自体がシャットダウンされてしまいます。
また、単に「5年後に1件創出」といった結果論ではなく、そこに至るまでに「何件ソーシングし、どのような知見を獲得するのか」というプロセスのマイルストーンを解像度高く設定することが不可欠です。テクニカルな手法も大切ですが、最終的に社内を動かし、困難を突破するのは担当者自身の「言語化された強い信念と熱量」に他なりません。
梶川:実践的なお言葉ありがとうございました。
