NECの先進事例に見るHRBPとFP&Aの実践モデル
栗原:事例として挙げられているNECなどでは、どのようにHRBPとFP&Aを機能させているのでしょうか。
加藤:NECの変革は、2018年に始まった全社プロジェクト「Project RISE(RISE 1.0)」からスタートしています。そこから「現場と社員の力を引き出す変革(RISE 2.0)」を経て、2025年からは「経営力の変革(RISE 3.0)」として、部門単位での経営機能の確立を目指しています。
同社の全社変革をリードしてきた吉崎敏文 執行役副社長 兼COOは、変革を「1:カルチャー変革」「2:人事制度変革」「3:業務プロセス変革」「4:事業変革」という4つのプロセスで捉え、まずカルチャー変革から始めることを重視しました。
組織のサイロ化が進む企業では、現場の腹落ち感がないままコンセプチュアルな変革を掲げても浸透しません。カルチャー変革の土壌を作った上で事業変革へ進め、「BluStellar(ブルーステラ)」というソリューションを中心としたビジネスモデルへ結晶化させたのです。

栗原:その「経営力の変革(RISE 3.0)」において、具体的にどのようなチーム構造で部門経営を行っているのでしょうか。
加藤:最大のポイントは、部門内に「部門経営チーム」を設置した点です。部門長をトップとした、「FP&A」と「HRBP」のトライアングルを基本に、部門内のコミュニケーション活性化を担当する「Chief of Staff」、さらに法務やサプライチェーンなどの「コーポレートファンクション」を配置して部門経営に参画させています。部門長を孤立させず、必要な経営機能・リソースを部門内に備える構造に切り替えたのです。
そして部門長は毎年、共通テンプレートを用いて「Playbook(部門の戦略書)」を作成します。HRBPはこのPlaybookを片手に、事業戦略と連動した組織設計や人材配置の最適化(ピープルアナリティクスやポートフォリオマネジメントなど)を支援します。Playbookがあるからこそ、HRBPは「部門のCHRO」として単なる人事運用を超え、事業戦略と連動した組織設計やリーダーの発掘・育成に踏み込めるのです。
栗原:HRBPやFP&AがミニCEO育成機関と呼ばれる理由でもありますね。ただし、現場人事の役割が増えすぎてパンクする心配はありませんか。
加藤:そこも極めて綿密に役割分担されています。NECでは2023〜2024年度にかけて組織を再統合・整理し、現場で戦略領域を担う「HRビジネスパートナー」と、共通HRサービスや制度運用・施策浸透を担う「HRコンサルタント」、さらに手続きや問い合わせ対応を行う「SSC(シェアードサービス)」へ明確に役割を分離しました。
HRコンサルタントが全社HR施策やHRカレンダー業務(評価・登用運用など)を支えることで、HRBPは労務などの定型業務から解放され、将来のビジネス戦略に直結する人・組織課題にフォーカスできる設計になっています。
栗原:ビジネスパートナーが現場に入り込んだ際、部門長に取り込まれて客観性を失うという話も聞きますが。そのような危険はありませんか。
加藤:HRBPやFP&Aは「部門長の右腕」として事業を勝たせるために動くのが大原則です。ただし、それだけでは部門長の何でも屋になりかねないため、本社のCFO・CHRO組織ともつながる「ダブル・レポーティング」体制をとっています。
牽制機能を確保しつつ、現場では参謀として動く。また、CoE(本社の専門機能)やSSC(運用機能)へと役割を分離しているため、戦略実行の支援に集中できる。さらにトップダウン(Playbookの展開や役員・部門長発信)とボトムアップ(キャリアデザインや現場起点の変革活動)の双方から働きかけることで、従業員が戦略を自分ゴト化して動く環境を整えています。



