「組織を変える」のではなく「組織が変わる」。適応課題に向き合い“最初のゴロ”を生み出す
栗原:著書ではハーバード大学ケネディスクール 上級講師のロナルド・ハイフェッツ氏の「適応課題」も引用されています。既存のやり方との摩擦や痛みにどう向き合うべきでしょうか。
加藤:実行支援のヨコ糸に該当する部分ですね。適応課題の本質を一言で示すなら「痛みの再配分」だと言えます。何かを変える際、既存のやり方で利益を得ていた人々に影響が及ぶため抵抗が生じます。理想論や綺麗ごと、単なる研修だけでは解決できず、実際の組織力学へ働きかける必要があります。
ここで有効なのが、ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスのヴィジャイ・ゴヴィンダラジャン特別教授の「3Boxシンキング」です。
- Box1(Manage the present):現在のコア事業のパフォーマンス維持・強化
- Box2(Forget the past):過去の棄却。古い固定観念やプロセスの廃棄
- Box3(Create the future):未来の構築。新規事業や新領域の創出
人は「捨てること(Box 2)」に強い抵抗を感じます。しかし、自分たちの根源的な強み(Box 1)を再確認できて初めて、安心して過去の手放し(Box 2)に向かい、未来(Box 3)へ踏み出せます。「両利きの経営」とは突拍子もない飛び地への無謀な挑戦ではなく、「自社の強みの拡張戦略」であり、「自社の強みの出口を変える取り組み」なのです。
栗原:最後に、現場で変革に挑む方々へメッセージをお願いします。
加藤:「組織を変える」という上からの発想を捨てることです。トップダウンの戦略とボトムアップの納得感が交差したとき、組織は自ずと「変わる」のです。AGCの元会長である島村氏からいただいた忘れられない言葉があります。
「大きな岩を動かす時はゴロンゴロンだろ。優秀な組織なら最初の『ゴロ』さえ出れば、あとはみんなでゴロゴロ動かすんだ。でも、最初のゴロが生まれねえんだ」と。
必要なのは大層な理論ではなく、自社における「象徴的な小さな成功事例(最初のゴロ)」です。「あのチームのやり方でうまくいったなら自分たちもやろう」という波及効果を生み出すこと。その環境を整えるのがHRBPとFP&Aの役割です。
人が動く論理は2階建ての構造になっています。具体的には、2階にある「両利きの経営」や「HRBP」といったコンセプトだけに飛びつくのではなく、ベースとなる1階部分、ご自身の違和感や問題意識を徹底的に探求してください。つまり、現場における「自分なりの物差しを持つ」ということですね。泥臭く現場を動かすプラクティショナーが増えていくことを期待しています。
栗原:本日は貴重なお話をありがとうございました。




