「刺激‐反応化する消費」とは何か──自動的な反応と後づけの思考、その行動は連鎖する
商品を作れば売れるという時代はとうの昔に過ぎ去り、今や日本は失われた20年どころか30年とも呼ばれる長期停滞の時代に突入している。巷では「モノが売れない時代」「消費の低関与化」などと言われ、多くの商品がコモディティ化(同質化)し、価格競争に陥る状況がそこかしこに見受けられる。そんな中、とりわけ消費市場で商品が売りづらくなっている原因として、筆者は、消費の「刺激‐反応化」に注目している。
刺激‐反応とは、外部からの様々な刺激に対して、買い手が「深く考えることなく」「なんとなく」「直感的に」商品を選択(反応)することを意味する。これは「刺激」とそれに対する自動的な「反応」が存在するだけで、その間に「考える」(思考する)という行為が欠落した状態である。この状態は「なぜ買うのか?」(購買動機)をブラックボックスにするので、消費は移ろいやすく捉えどころのないものに映る。売り手は買い手に対して何を提供すべきか予測が立てづらくなり、ビジネスの不確実性は高まるばかり。なぜその商品を買ったのか、と聞いてみても、当の顧客は後付けの理由を教えてくれるだけである。顧客本人さえ、刺激‐反応で買っているので真の理由など知らないからだ。
ご存じのように、スーパーマーケットでの買い物では、事前に何を買うかを決めてから買いに行く計画購買よりも、売り場で何を買うかを決める非計画購買の場合の方が多い。しかも自分が何を買ったのか覚えていない場合も多いという。非計画購買とは、売り場の刺激(商品、POP、値引き、BGMなど)に対して自動的に反応する刺激‐反応的な行動である。こうした刺激‐反応的な行動は、AIなどテクノロジーの進歩を背景に、通販サイトのレコメンデーション機能のような装置によって、今後ますます拡大していくだろう。Amazonを閲覧していると様々な商品がレコメンデーションされ、買うつもりもなかったのに刺激‐反応的に買ってしまう、といった風景は珍しくなくなった。さらに、スマホの普及によって、SNSやレビューサイトを通じ、他者による商品の経験レビューを手軽に知ることができるようになり、ブランドではなくレビューが刺激となって自動的な選択(反応)が引き起こされる、といったタイプの刺激‐反応化も拡大している。