「製造業版メルカリ」で日本の製造業の復権を目指す
次に、日本製鉄株式会社発新規事業「KAMAMESHI」を代表して小林俊氏が登壇した。

小林氏が提起した課題は、製造業における“横のつながり”不足だ。生産終了などで部品を手に入れられずに数億円の設備を諦める企業がある一方で、別の企業ではそれらの部品が大量に廃棄されているという。
それを解決するのが「KAMAMESHI」だ。いわば“製造業版のメルカリ”として、プラットフォーム上で部品需要が発生した企業とそれを所持している企業をマッチング。その前段階として、設備保全の専門人材が各企業の設備・在庫のデータベース構築と見える化もサポートするため、「社内の在庫を可視化し、不要なものを出品し、必要なものを調達する」という一連の流れができる。
この事業は初年度から黒字を達成。今後は設備保全のサポートシステムやECモールの展開、海外進出、さらにはBCP対応や災害復旧までスコープを広げ、2029年に売上100億円を目指すという。
「日本の製造業を復権させる鍵は、水平型のつながりを作ることだ」と言い切った小林氏。日本製鉄として製造業を支えてきた誇りと覚悟を胸に、さらなる事業拡大を誓った。
この発表を受けて、株式会社ゼロワンブースター 代表取締役の合田ジョージ氏は、「日本製鉄だからこそ勝てるポイントは」と質問。小林氏は「単なる在庫管理ではなく、設備保全に焦点を当てていること」と答えた。設備保全の中でも、事前にリスクを察知して定期的に調整を図る予知保全の知見は、日本製鉄のような巨大インフラを持つ企業にこそ蓄積されているのだという。

AI活用の“置き薬”で医薬品流通の仕組みを変革
「premedi」は、キリンホールディングス株式会社発の新規事業だ。登壇した代表者の田中吉隆氏は、「薬局で薬をすぐにもらえない」という課題へ注目するよう促した。

その背景には、薬局の在庫管理の難しさがある。調剤機会の少ないロングテール医薬品が多く、そのニーズ発生時期を予測できないので、薬局は薄く広く在庫を持つのが理想とされる。しかし、医薬品の卸売業者は箱単位でしか販売していないため、購入をためらった結果、在庫がなかった際は近隣の薬局まで医薬品を分けてもらいに行く羽目になる。
「premedi」はその課題を「置き薬」という方法で解決する。キリン独自のパッケージング技術を活用し、10錠単位の小分けパッケージで薬局に医薬品を提供。同時にキリン独自のAIによって、薬局ごとに高いニーズが見込まれるロングテール医薬品をリコメンドする。これによって患者はその場で医薬品を受け取れ、薬局は患者のリピート率アップを期待できるという。
2025年時点で毎月10%の成長率を維持しているという同事業。2029年時点で20億円のストックビジネスにするという目標に向け、ジェネリック医薬品大手との提携や、国内最大手ドラッグストアでの採用も決定するなど、着実に歩みを進めている。さらなる野望は「医薬品流通の仕組み自体を変革すること」と田中氏。仕組みを変えることで、薬局で薬をすぐにもらえる状態を当たり前に実現し続けたいと決意を見せた。
プレゼン終了後、医薬品の卸売業者が同市場に参入してきた際の差別化ポイントを尋ねたのは、株式会社Sun Asterisk General Managerの井上一鷹氏だ。田中氏は「卸売業者には医薬品廃棄を減少させるインセンティブがなく、参入可能性は低い」とした上で、「万一後追いしてきた場合でも、ロングテール医薬品に特化したデータをAIで活用できることが強みになる」と回答。卸売業者は、温度調整や管理・配送に注意が必要な医薬品を、「premedi」はそれ以外の医薬品を扱うことですみ分けられるはずだと語った。
