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企業価値向上のためのFP&A

NECの最高益を支えた、FP&Aによる短期と長期利益のジレンマ克服──経営可視化と人材育成の秘訣とは

ゲスト:日本電気株式会社 嘉田昌弘氏、岡田義朗氏

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「短期利益の最適化」と「長期利益の最大化」の両立は可能か

池側:現在、NECは「2025中期経営計画」を終え、新しく発表された「2030中期経営計画」を見据えたパラダイムシフトの真っ只中にあります。ファイナンスの視点から、これまでの経営戦略の総括と、FP&A組織が果たすミッションについてお聞かせください。

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【聞き手】ストラットコンサルティング株式会社 代表・FP&Aアドバイザー 池側千絵(いけがわ・ちえ)氏

嘉田:前中計においては、外部市場にコミットした売上収益や調整後営業利益などの基本的な財務経営指標をほぼすべて実現させることができました。しかし、CEOの森田の言葉を借りれば、これらはまだ「道半ば」に過ぎません。企業価値を本質的に高めていく真の挑戦はこれから始まります。

 私たちFP&A組織が全社の経営方針として共通認識としているのが、「短期利益の最適化、長期利益の最大化」の両立です。日本の多くの企業は、単年度予算の必達という目先のP/L(損益計算書)管理に重きを置きがちですが、不確実性が高くビジネスモデルが複雑化する現代において、それだけでは会社を間違った方向へ導きます。

 新中計で2030年に目指すべきとして定めたゴール(全社売上CAGR 3%+、Non-GAAP営業利益率15%+など)から逆算し、今この瞬間のリソースや短期利益をどう最適にコントロールすべきかを導き出す。この一見矛盾する二つの時間軸をデータで調停し、経営マネジメントを数段も上のレイヤーへと「高度化」させることこそが、FP&A部門の最重要ミッションです。

池側:具体的には、長期利益の最大化に向けてどのような活動をされていますか。

嘉田:私たちは長期利益の最大化を「成長性の加速」「収益性の最大化」「資本効率経営の実践(Cash ROIC評価などによるキャッシュ・フロー経営への接続)」「事業構造改革の断行」という4つの要素に分解しています。

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資料提供:日本電気株式会社 FP&A部門 FP&A改革グループ/クリックすると拡大します

 たとえば「事業構造改革」の面では、これまでは低収益の事業であっても、現場の事業責任者が「いずれ良くなる」という夢を語り、撤退やカーブアウトの決断が先送りされる傾向がありました。ここにFP&AがCFO主導の徹底した「低収益モニタリング」を持ち込み、客観的なクライテリア(判断基準)に基づくゲート審査を仕組み化しました。

 現に、2020年度末に16事業あった対象のうち、22年度に4事業、23年度に5事業、24年度に3事業、25年度に2事業を「卒業」させ、残り6事業についても自主改善かカーブアウトかの見極めを完了しています。ウェットな事業愛に寄り添いながらも、企業価値最大化のためにロジックで割り切る規律を担保しています。

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図版出典:日本電気株式会社「2025年度 通期決算(2026年4月28日) プレゼン資料」より/クリックすると拡大します

「経営・ファイナンス刷新プロジェクト」の攻めのプライシング

池側:案件や商材の収益性そのものを改善していくための、日々のプロセスにおける工夫について教えてください。

岡田:CEOの森田がCFO時代に社内に組み込んだ大きな仕掛けとして「KFP(経営・ファイナンス刷新プロジェクト)」の仕組みがあります。それまでは事業部門ごとにバラバラに設定されていた「売り物(商材・オファリング)」と「売りたい価格(プライシング)」を全社共通のデータベースで見える化し、明確な共通言語にしました。

 さらに、実際の業務プロセスの中に価格承認のルールを厳格に組み込みました。具体的には、標準の価格帯から一定以上の割引を行う場合や、限界利益率が一定の基準を下回るような場合には、金額や割引率に応じて現場のディレクターから統括部長、部門長、そして最終的にはCFOや社長へと承認権限が自動的に上がっていく仕組みです。

池側:日本企業では案件の価格決定権を現場の事業本部長に任せきりにすることが多いですが、コーポレートがそこに深くコミットしているのですね。

岡田:はい。これをビジネスルールとして徹底したことで、収益性の解像度が飛躍的に向上しました。現在では、全社的に「この商材がどの程度の付加価値で売れているか」が横並びで比較可能です。

 たとえば、金融領域で高く評価されているソリューションを、製造やパブリック領域に適用する際、「なぜこの価格で勝負できるのか」「どこにリスクがあるのか」を、FP&Aがデータを武器に事業部長と対等に渡り合いながら受注前審査の段階から牽制・支援できるようになっています。

次のページ
「CFOダッシュボード」と「経営コックピット」の構築

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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