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世界10万人が学んだMBAメソッド──ネットフリックスの事例から学ぶ「価値創造」の本質【書籍抜粋】

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プロジェクト評価でDCF、NPVよりも大切な視点

 マネジャーであるあなたが会社全体を評価しなければならないことはほとんどないだろうが、投資プロジェクトの評価に関わることはあるかもしれない。

 あなたは、会社で担当している分野に関する、すばらしいビジネス案を思いついたとする。その案は、現金と工数をあらかじめ投入する必要があるとはいえ、すばらしいものだとわかっている。なぜなら、長期にわたって費用を削減し、収益性の高い売上を新たに生み出したり、会社にとって何かほかの恩恵をもたらしたりするはずだからだ。

 あなたは直感的に自分の案が会社に価値をもたらすと感じているかもしれないが、価値に貢献するかどうかを判断するにはどんな基準を用いるべきだろうか?

 投資家は、将来キャッシュフローを得るために企業が資金を自由に使えるようにしている。企業が資金を使うたびに本来は投資家のもとに戻るはずだった現金が投資家から奪われることになる。投資家が現金を諦めるのは、少なくとも投資コストが得られるときに限られる。

 あらゆる投資プロジェクトは、究極的には、企業の全体価値と同じように考えるべきだ。つまり、リスクを考慮に入れたうえでプラスのネットキャッシュフローをもたらさなければならないのだ。ある投資プロジェクトの実行可否の判断には、本書の「第9章 評価基盤」で学んだのと同じ評価手法を用いる必要がある。

  • 当該プロジェクトに関して、期待されるキャッシュフローを、プラスのものもマイナスのものも策定する【※3】
  • 各年のインフローとアウトフローを合算して、ネットキャッシュフローを算出する
  • 各年のネットキャッシュフローを、資本コストを使って現在価値に割り引く
  • 結果を合計する

※3 企業とは違い、プロジェクトにはたいてい寿命がある。典型的な投資プロジェクトは重要な装置の購入といったものだ。そうした装置には予想耐用年数というものがあり、それによって何年分のキャッシュフローを予測し、割り引いて、分析に含めるべきかが決まる。また、一般的にプロジェクトには初期の現金投入(投資)がともない、それが評価に影響を与える。初期投資はたいていプロジェクトの開始時に起こるために割り引かれない。

 その結果は、「正味現在価値(NPV)」と呼ばれている。NPVがちょうど0の場合は、そのプロジェクトの利益が資本コストとまったく同じであることを意味している。NPVの標準的な解釈からすると、NPVがプラスのプロジェクトだけを実行に移すべきで、NPVがマイナスのプロジェクトにはゴーサインを出すべきではないことになる。企業に対する1つの見方は、実行しているプロジェクトの総和にすぎないというものだ。

 もし企業が、NPVがプラスのプロジェクトだけを実行しているのなら、たいていは、投資家が放棄した利益と引き受けたリスクを十分に埋め合わせるはずだ。だが、そうしたプロジェクトが1つとして失敗しないという意味ではない。なかには失敗するものもあるだろうが、割り引くことで、まさにそれを想定に入れているのだ。

 キャッシュフロー・モデルをまとめて、アイデアを経営陣に売り込むときは、NPVを計算することで印象づけられるかもしれない。だが、正直に言うと、経営幹部はどれだけ完璧にキャッシュフロー・モデルを準備した上で自分たちの質問に答えてくれるかに対してより感銘を受けるだろう。彼らが知りたいのは以下のような事柄だ。

  • あなたのプロジェクトは、企業の戦略にどれくらい合致しているか?
  • どんな前提が組み込まれているか? そうした前提はどれだけ堅固なものか? あなたのプロジェクトは、どんなデータをもとにしているか? そのデータは、社内のどの部門から入手したものか?
  • 売上と費用への影響だけでなく、運転資本への影響も考慮したか?
  • 最悪のシナリオを検討したか? 最良のシナリオは?

 もしあなたが、こうした質問に対する答えを用意しているのならば、会社の資本コストを使ったキャッシュフロー・モデルは実質的には単なる補足にすぎず、スプレッドシートに何度か数字を打ち込むだけですむ。結局のところ、あなたの売り込みがうまくいくかどうかはDCFやNPVといった専門用語の略語ではなく、キャッシュフロー・モデルの質と資本コストにかかっている。

持続的な価値創造のロジック──株主価値とステークホルダー価値

 私たちは、何年も掛けて受けてきた数学教育のおかげで計算によって得られた結果を宇宙の法則に則った事実のようなものとして受け入れがちだ。

 本書の「第9章 評価基盤」では、いかに企業の価値が、ある程度複雑な公式によって算出される1つの数値にまとめられるかを説明した。私たちが指摘したように、その数値は宇宙に関する客観的な事実などではない。計算へのインプットが関連性が疑わしい過去のデータ、裏づけのない直感、他者からの剽ひょう窃せつであるだけでなく、計算の対象自体がかなりふわふわしたものだからだ。

 それは、無限だが不確実な将来キャッシュフローの流れに対する権利についての株主の知覚価値だとも言える。結局のところ、評価公式がもたらすのは、きわめて主観的かつ流動的な概念のかなり不正確な測定値にすぎないのだ。

 不正確な測定ツールを使って、異なる人たちが、異なる時期に、異なる測定値を得ることになる。公式の有用性は私たちが得る特定の測定値に関してはそれほど大きくない(348ドルだったネットフリックスの株価が翌日には226ドルになった)。だが、ビジネスに関する決定がもたらすと予想される影響と、そうした影響が互いにどんなトレードオフ関係にあるかという方向性を示す。株主価値に関する決定のトレードオフを理解することは経営の本質の一部だ。

 しかし、朝起きて株主価値の創造だけに打ち込む人はまずいない。人々を互いに協力させる能力という恒久的な経営の専門的技能に目を向けると、株主価値をより大きな文脈のなかで捉えたくなる。

 企業の成功に関心を寄せるのは株主だけではない。顧客はもし自分でつくらなければならなかったとしたら手が届かないような製品やサービスを入手する。従業員は給料が貰えてやりがいのある仕事を見つける。製品、サービス、雇用機会はより大きなコミュニティに恩恵をもたらすことがあるが、その費用を負担させることもあるかもしれない。

 株主価値を理解するために評価ツールを使うとき、私たちは、ガラス管のなかの水銀柱の高さで温度を測るようにステークホルダー価値についても間接的に何かを学ぶのだろうか?

 まず、すでに説明したように、必要な最低水準の株主利益は資本を維持するだけだ。投資家が最低水準の利益を得ない場合は、世界のリスクによって資本の備蓄が少しずつ減っていき、やがてはゼロになってしまうだろう。そうなると、長期間にわたって全員のために価値を生み出すようなすばらしい資産(道路、橋、発電所、コンバイン収穫機、リソグラフィ装置、そして芸術の傑作や文化といった)に資金を供給するだけの資本が残されていないことになる。

 だが、評価ツールに関してとりわけ説得力があるのは将来に対するその姿勢だ。価値の創造は、単に手っ取り早く儲けることではない。価値を創造するには、無限に続く将来キャッシュフローの流れに対する信頼感を与える必要がある。

 そのためには、毎年毎年、顧客価値を創造しつづけなくてはならない。ベンダーや従業員のために価値を生み出さないようなやり方をしていると、サプライヤーが撤退し、従業員がストライキを決行したりライバル企業に移ったりして、より高い予測不能性につながるだろう。将来キャッシュフローの無限に続く流れがあるためには、当然ながら将来がなければならない。

 その将来は、戦争、病気、環境の悪化といった、きわめて不安定な状況によって特徴づけられるものであってはならない。また、人々が互いに強い不信感を抱き、資源、知識、スキルを持ち寄って、全体を部分の総和より大きくすることができないような将来であってもいけない。

 私たちの世界は完璧なものではない。マネジャーはときどき持続できないような方法で投資家に将来への期待を抱かせて、会社の評価を押し上げることがある。また、会社の将来に対する信頼を永久に損ないかねない手段をとることもある。

 それでも、すでに説明した評価見解に深く埋め込まれている長期的な視点は株主価値を垣間見るための適切な方法かもしれない。バーで会ったらそのほかの方法についても話そうではないか!

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この記事の著者

大久保 遥(Biz/Zine編集部)(オオクボ ハルカ)

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