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「自分の主体性」を疑い、新しい選択肢を見出す。ナラティブ・ストーリーから考える現状打破の秘訣とは

ゲスト:トランスフォーム共同代表 稲墻 聡一郎氏、at Will Work 理事 猪熊 真理子氏【後編】

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「私の主体性」を疑い、オルタナティヴなストーリーを紡いでいく

宇田川元一さん(以下、敬称略):色々な人から相談を受けていて思うのですが、例えば新規事業を任されることになった人とか、働き方改革の担当者とかがある種の被害者的な感覚の“主体性”を持っていることが、最近気になるんです。「『やれ』と言われたからやっている」という感覚があるんですよね。

猪熊真理子さん(以下、敬称略):エージェンシー(行為主体性)の話ですね。「その人の主体的な意思にもとづく多様な目的や価値の形成とそのもとでの自律的な選択」という意味を指すんでしたよね?

宇田川:そうです、そうです。その同じ人は、家に帰ったらお母さんやお父さんかもしれない。すると、違う主体になるんです。身を置く関係性が変われば主体性も変わるんです。主体性って、その程度のものだというのが社会構成主義の考え方なんですよ。そもそも、「個人」という概念も、近代の創造物にすぎないですし。

その程度のものなのに、肉体的に「私」というものが続いているから、一個の確たる主体性があると考えられがち。人間の主体性が肥大化して捉えられすぎていて、過剰に「確たる自分」というものを信じすぎているように思うんです。

稲墻 聡一郎さん(以下、敬称略):その通りですよね。もし、何か違和感を抱いているならば、違う在り方を考えてもいい。ただ、在り方を変えるのには、前回セルフマネジメントについて話し合ったように、自分の中の違和感に向き合う必要があるので、何か恐れを感じる人も多いでしょうね。

宇田川:そうですね。稲墻さんや僕は40代ですが、この年代は、なんとなく「奪われてきた感覚」というか被害者意識がある年代ですよね。「もっと前の時代は仕事のチャンスもたくさんあった」とか、そういった感じで。

稲墻:そうですね。でもそう感じていてもおもしろくない。セルフマネジメントの訓練を続ける中で、その感覚は自分で作り出している感じは全くないと自覚できたので、僕はそう感じるのを「やめる」ことができたんです。

宇田川:「やめる」というのは大事ですよね。ナラティヴ・アプローチの重要な研究者の一人、マイケル・ホワイトが『物語としての家族』のなかで冒頭に書いているのは、哲学者のフーコーの話なんです。フーコーは、権力関係というのは言語的に社会に「作られていく」といっているんですね。つまり、権力は自然発生的に生まれたり、誰かに押し付けられたりするものではなくて、みんなが従うことによって権力が生み出されていくとフーコーは言っているんです。であれば、従うのを止めれば権力も実在しなくなる。ドミナント・ストーリー、つまりその人を支配している物語を変えていくことに可能性があるのです。


物語としての家族『物語としての家族[新訳版]』
マイケル・ホワイト (著), デイヴィッド・エプストン (著) / 金剛出版


猪熊:となると、被害者意識を持っている時点で、その権力関係と抗っているし、ドミナント・ストーリーを「あるもの」としてみなし、絡めとれていることになりますね。

宇田川:そういうことです。そしてドミナント・ストーリーに対抗する一番いい方法は、オルタナティヴなストーリーを作り出すこと。そしてホワイトはそのために我々が使えるリソースが「語りなおすこと」だというんですよ。そう考えると、スマイルズの遠山さんがおっしゃっている「やりたいことをやる」というビジネスモデルは非常におもしろいと思うんですよね。


稲墻聡一郎稲墻聡一郎さん(トランスフォーム合同会社共同代表)
大手IT企業にて法人営業や人材育成を経験した後、IT系の人材育成を行うベンチャー企業役員を経て、2011年に起業。2015年~2017年まで、ロサンゼルス近郊にあるDrucker School of Management(通称:ドラッカースクール)で2年間学び、2017年7月に帰国。同大学院の准教授であり、セルフマネジメント理論研究の第一人者でもあるジェレミー・ハンター博士、および卒業生の藤田 勝利氏と一緒に、トランスフォーム合同会社を2018年1月に設立。セルフマネジメントをベースにしたマネジメントプログラムを提供している。

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