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組織戦略としてのデザイン

“企業経営のパラドックス”を乗り越え、両利きの経営を推進するデザインの力──統合思考が必要な理由とは

【特別回・後編】武蔵野美術大学 クリエイティブイノベーション学科 教授 岩嵜博論氏

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「デザインの拡張」を実践するデザイン組織たち

──前編では、岩嵜さんの近著『デザインとビジネス 創造性を仕事に活かすためのブックガイド』(日本経済新聞出版社。以下、本書)の内容に触れながら、デザインの全体像を俯瞰しました。後編では、本連載で取材したデザイン組織がどのようにデザインを活用し、どれだけデザインの可能性を引き出せていたのか、振り返りたいと思います。

デザイントライアングル
図版出典:岩嵜博論『デザインとビジネス 創造性を仕事に活かすためのブックガイド』(日経BP/日本経済新聞出版、2023年8月)を参照し、作図/クリックすると拡大します

 本連載を振り返ってのポイントは3つあります。1つ目は、取材したすべてのデザイン組織でデザインの領域が拡張していたこと。2つ目は、従来ならばデザインの機能を有していなかった部門にもデザインが拡張していたこと。3つ目は、これが最も大きな発見だったんですが、どのデザイン組織でもビジネスサイドとデザインサイドが見事にコラボレーションしていたことですね。

 まず、1つ目のポイントから話すと、前編でも指摘したように、デザインには姿かたちに留まらず、物事を構想したり、ビジョンを描いたりと、より広い領域に機能を展開できる力が備わっています。その点について、日本の組織ではなかなか理解が進まない状況があったのですが、本連載で訪れたデザイン組織はすべて、姿かたちに留まらないデザインを実践していました。

 その1つの例が、日立製作所のデザインセンタ[1]です。もともと、日立製作所のデザイン組織も家電製品などのプロダクトデザインを中心に手がけていましたが、経営が社会課題解決を志向する社会イノベーション事業に方針転換していくなかで、サービスデザイン、ビジョンデザイン、トランジションデザインなど、デザインの領域を拡張していました。

 また、NTTコミュニケーションズのデザイン組織「KOEL」[2]は、事業部門とデジタルプロダクトを共創する一方で、地域へのフィールドワークを通じて50年後の働き方を構想する「みらいのしごと after 50」のような、ビジョンデザインの活動も同時並行で行っています。

 いずれにおいても、姿かたちを造形する「狭義のデザイン」から、物事やビジョンの構想を手がける「広義のデザイン」への拡張が見られます。さらに、僕は「ストラテジックデザイン」というよく言葉を使うんですが、デザインをプロダクト開発やビジョン策定、事業構想など、組織の戦略として活用できている点もポイントかなと。デザインが本来有している構想力や実装力を、組織的に活用している好例だと思います。


[1]前編『日立製作所のデザインセンタが辿り着いた組織構造──デザイナーと研究者がハブになる研究所文化とは?』/後編『日立製作所のデザイン組織に研究者とデザイナーが同居する理由──異なる立場のハブ人財による両利きの経営

[2]前編『深化に偏る大企業で、探索の起点としてデザイン組織が経営にコミット──「KOEL」に至る約10年の軌跡』/後編『そのデザインは経営に寄与するか、創造性を最大化させるか──KOELが実践した事業支援と人材育成とは?

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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