「大失敗」すらも次なる成長の資産へと変える組織文化
佐藤:今回の調査では、長寿企業の成長要因の一つに「失敗から学ぶ風土」が挙げられていました。レジリエンスとも言われますが、皆さんの会社で今も語り継がれる失敗作や失敗事業はありますか。
杉田(DNP):先ほど印刷技術を事業の軸足としてきたことは変えていないと申し上げましたが、唯一の例外が1970年代のボウリング場経営への参入です。自社の強みを十分活かせず撤退することになりましたが、逆にこの時「自らの強みを軸に事業を広げる大切さ」を深く学びました。そのため、その後のバブル期に不動産や財テクの話が持ち込まれても一切手を出さず、新工場や研究施設に投資し、それが今の成長につながっています。ちなみに撤退したボウリング場のレーンは保養所に移設し、転んでもただでは起きないDNPらしさを発揮しています。
武内(サッポロビール):1988年にドライ戦争が起こった際、新しいお客様を獲得しようと、なんと主力商品だった黒ラベル(当時の「サッポロびん生」)を一時やめて、「サッポロドラフト」という新商品に変えたことがあります。大々的なマーケティングを仕掛けたのですが、お客様から「なんでやめたんだ」と凄まじい反発の声をいただき、わずか半年で復活させることになりました。「ブランドは我々のものではなく、お客様のものなのだ」と気づかされた痛恨の失敗であり、この教訓は我々の中に残り、今のマーケティングにも大きく活かされています。
島地(東レ):私も個人的に関わった、90年代の「書き換え型光ディスク事業」の失敗があります。テープがなくなる時代に向けて立ち上げましたが、技術的な強みの検証や販売チャネルへの前提が大甘で、案の定失敗しました。しかし、今回の調査で統制・堅実型が伸びるポイントがまさに「失敗を資産に変える」ことでした。古い例ですが、かつて靴用途として挑戦して失敗した合成皮革の技術をスエード調に転換し、現在の「ウルトラスエード」という大ヒットにつなげたように、失敗を肥やしにする歴史なのだと思います。
次の100年へ向けて、組織に眠る「起業家精神」を呼び覚ます
佐藤:それでは最後に、次の100年に向けて今後も大切にしていきたいことや、変化を実現するための企業風土の作り方についてお聞かせください。
島地(東レ):社会を変えていく気概を持った「人を育てること」と「現場主義」です。ただ、現場主義は名前を持った人の集団を動かすため、ともすればスピードが遅くなります。だからこそ、健全な危機意識を持ったリーダーをしっかり育て、変えるべきものを果断に変えていくことが重要です。弊社もまだまだですが、3年前から挑戦を褒め称えるアワードを始め、挑戦を後押しする文化への変革を進めています。
武内(サッポロビール):開拓者精神と、お客様との関係性を大事にし続けることです。常に魅力的なビールや外食体験とは何かを問い続け、時代とともに移り変わる新しいお客様に対して「新しい価値」を提供し続けること。それができなくなったとき、私たちの存在意義はなくなります。そして社内に対しては、変化を目的とするのではなく「こういう世の中を作りたい」というビジョン起点で物事を考え、社員の共感を作る状態を追求し続けることが重要だと思います。
杉田(DNP):一人ひとりの強みを掛け合わせる「オールDNP」のシナジーと、前例にとらわれない発想で新たな価値創造に挑み続ける企業風土を作ることです。風土を変えるには、経営がことあるごとにビジョンを伝えるだけでなく、DNPアワードのように「いかに新しい価値に挑戦したか」を評価する仕組みの両輪が必要です。受け継いできた志や技術を大切にしながら、これからの100年も前例のない未来に挑み続けたいと思います。
佐藤:ジェフリー・ジョーンズ教授も、日本の長寿企業には元来素晴らしい「起業家精神」が溢れていると指摘していました。それを保守的な体制で押し殺さず、いかに呼び覚ますリーダーシップを取れるかが今後の鍵になりそうですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。



